教会でのコンサートと芸術のお値段

聖セルファース教会で、なかなかに気骨のありそうなチャリティ・コンサートがあることを知り、興味を持ち、出かけた。
ローマにある、オランダ・ベルギーおよび北部ドイツからの巡礼のために400年ほど前に建てられた、通称フリース教会の修築費用供出のために、有志が結成した合唱団によるカトリック教会音楽のコンサートだ。
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            ローマのフリース教会内部

この教会は、サン・ピエトロの筋向いの建物の奥、階段を登った場所にひっそりとあり、知っている人しか訪れそうもないが、オランダからの巡礼には親しまれてきているそうだ。

寄付金集めのために全国5箇所でコンサートを行い、その最後のがマーストリヒトだった。
プログラムは、グレゴリア聖歌から始まり、ジョスカン・デ・プレから現代に至るオランダ人作曲家によるカトリック音楽の流れを辿るものとなっている。

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          会場となった聖セルファース教会の主祭壇

復活祭・昇天祭・精霊降臨祭のグレゴリア聖歌に続いて、ジョスカンとまた別の作曲家による16世紀のポリフォニーのあとは、ぐっと時代が現代に近づき、いきなり20世紀である。20世紀のオランダ人カトリック作曲家の名前なんて、誰も知らないだろうし興味もないだろうから、ここには書かない。それが10人も続いた。
それらは、主に合唱曲で、メゾとバスによる独唱曲も少しあった。そして、合間にオルガン独奏曲も入った。20世紀オランダのカトリック音楽は、いずれもラテン語の歌詞でくどくどとキリストやマリアを讃える内容で、音楽にもあきれ返るほどオリジナリティーが乏しく、16世紀からほとんど進歩していないように聞こえた。

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その中で異質だったのは、なぜか真ん中と最後に歌われたポーランドの現代作曲家グレツキのTutus tuusと O Domina nostraで、これはわたしの好きなミニマルな聖歌であるが、その独創性には、他の曲と比べると天と地ほどの差がある。さすがに、世界的に活躍しているのも故なしではない。
歌詞はたった一行で、音楽もミニマルなのに、そのインパクトの強さと美しさは秀でている。言わずもがなの賛美は無用、とばかり、「おお我らの神よ」と「マリア様、わたしは全てあなたのものです」というタイトルがほぼそのまま歌詞になっているだけだ。それが、劇的に高揚する音楽とぴったりとあって聞き手の胸に迫る。

最後から二番目に、1962年生まれのオランダ人作曲家Aart de Kort によるLaudate Dominumが、作曲家自身によるオルガン演奏で歌われた。この曲だけは、面白かった。わたしと同年代の作曲家によるこの曲は、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの「タルカス」そっくりで、かっこいいのだった。現代オルガン曲は、不協和音やとんでもない効果音ばかりでがんがんと頭を殴られるような気分になるものも多いが、この曲はなかなか感じがよかった。

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         聖セルファース教会のパイプオルガン

さて、寄付金としては、いくらが妥当であろうか。
払う額は、個人の思惑に委ねられる。わたしは、コンサート内容に妥当な額と踏んで3ユーロ払った。お札で払っている人も結構いた。

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     教会の外に出たら、絶妙のタイミングでカリヨンが鳴り出した。
     バッハのマーチだった。

芸術作品やコンサートなどに払う金額には、相場と思えるものがある。しかし、安ければ安いに越したことはない。
その相場が、一般の常識と非常に隔たっているのが現代アートの世界だ。デミアン・ハーストなんて、今年も現代アート長者番付トップだろう。また、ゴッホやセザンヌ、モネなど印象派の絵も競売に出されるとあいも変わらず高値を呼ぶ。

おかしいのは、気に入って目をつけていたアーチストの作品が、その後ぐんと高値になった場合、買える訳もないが、「やはり、わたしの目は確かだった」などと思い、なんとなく満足・納得してしまう自分だ。
ピーター・ドイグの展覧会をボネファンテン美術館で観たのは7,8年前だと思う。冷たくしんとした空気が感じられて気持ちがよく、ブライアン・イーノの音楽が聞こえてきそうな素敵な絵の数々に引き込まれた。それが、2年前から、押しも押されぬ高値の付く画家になってしまった。先日も、彼の絵はまたまた予想以上の値で売れた。うれしいような、悲しいような気分である。
ナイジェラ・ローソンの旦那さんのチャールズ・サーチのギャラリーに、彼の絵がいくつか所蔵されている。

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       オランダ最初の司教、聖セルファース。
       4世紀に亡くなった彼の墓の上に建てられた
       聖セルファース教会は、オランダ最古。
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by didoregina | 2009-10-29 22:39 | コンサート | Comments(8)
Commented by sarahoctavian at 2009-10-30 16:03 x
現代アートや音楽というと全く理解できないものがよくあるんで、私などは食わず嫌いになりがち。そんな中に時にはささやかなる自分の感性に訴えるものを発見した時うれしくなります。そのオランダ人若手作曲家(若いですよねっ私たちと同年代ってっ)のオルガン曲・・良さそうです。耳に入ってきた途端ドキッとしたんでしょう、レイネさん?私も好きでしたELP。タルカスかっこいいですもんね~。(早速Youtube検索)
Commented by REIKO at 2009-10-30 17:24 x
何ッ!?「タルカス」そっくり!!
私も好きでしたELP。タルカスかっこいいですもんね~。
↑↑↑すみません、Sarahoctavianさんのコピペです。(だって、ほんとに同じなので)
高校時代に、ELPを聴いてた時には気づきませんでしたが、その後古楽で知った曲で「あ、これELPで聴いた事ある!」なんてのが結構あります。
今思うと「こんなモノまで聴いてパクってたのか」という感じです。
それが今や、クラシックの作曲家に逆パクされるようになったんですね。(ほんとにパクったのかどうかはともかく)
日本で、タルカスの冒頭部分を、ピアノアレンジで弾いていた、クラシックピアニストの卵もいましたよ。
感無量でございます・・・♪
Commented by sarahoctavian at 2009-10-30 19:58 x
んまっREIKOさんもっ!キース・エマーソンはバッハが好きだったのですよね、確か?彼のストイックな感じのキャラも納得です。展覧会の絵もイェルサレムも実を言うとELPから入りました~ワタシ。グレッグ・レイクの美声も好きだったなぁあ(あくまでも声がっ)。数年前に突如聞きたくなってベストオブELPなんてCDを買いました。コンセプト最優先のプログレ・ロックとしては全く邪道だけど~。
Commented by レイネ at 2009-10-31 04:20 x
sarahoctavianさま、「イブの息子たち」ファンのわたし達としては、「タルカス」には思い入れがありますよね!ELPってメンバーのキャラクターが3人3様で個性的だし、あの音楽は、かっこいいとしか形容のしようがありません。音だけでなく、歌詞もいいし。中学・高校時代、英語の勉強がわりに熟読してました。
「コンフュージョン・ウィル・ビー・マイ・エピタフ」とか「ブレイン・サラッド・サージェリー」なんて必殺技の歌詞と歌!
ああ、青春の音楽でした。
Commented by レイネ at 2009-10-31 04:38 x
sarahoctavianさま、そうそう、「イェルサレム」なんて歌えちゃうもんね。(ついでに「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」もクイーン・ファンとしては当然歌えます)
「展覧会の絵」をピアノで弾きたいのですが、腕力とテクニックが必要なんです。「プロムナード」なんかでも、楽譜見ると結構難しい。でも、がんばってみよう。
Commented by レイネ at 2009-10-31 17:49 x
REIKOさま、ELPの件でレスしたんですが、間違って削除してしまいましたので、もう一度。
要点は、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」よりも「ナット・ロッカー」の方から先に入ったかもしれない、ということと、次男がピアノ曲の「くるみ割り人形」を練習してるのを聞くと、キース・エマーソンのシンセ(モーグか?)のリズムに似てる、と思ってしまうということ、でした。

また、「恐怖の頭脳改革」は、アルゼンチンの作曲家ヒナステラの「ピアノ協奏曲第一番」からのパクリなんですが、作曲家も絶賛したらしいです。
このヒナステラの原曲も華やかで好きなので、誰かコンクールで取り上げて人気がブレークしないかなあ、と密かに願ってます。
Commented by REIKO at 2009-11-02 00:03 x
え!?その「恐怖の頭脳改革」の話、マジですか!?!!???
音楽辞典見たら、ヒナステラのは1961年作曲とありますが、10年ちょっとでパクッたんですか、今なら超問題ですね。
う~~~ん、キース・エマーソンって人は・・・!
彼、音楽に関してものすごく博学だけど、本当の意味でのオリジナリティは、あまりないのかもしれませんね。
いろんなもの聴いて、上手くつなぎ合わせてるというか・・・。

「イブの息子たち」は、大学の時、授業中にガシガシと読んでいました。(笑)
Commented by レイネ at 2009-11-02 04:32 x
REIKOさま、ウィキによると、アレンジの許可をちゃんとヒナステラに伺い承諾済だそうです。ご安心を。
オリジナリティってのは、難しい問題ですね。本当の天才でないと、泉のように自分本来の音楽は湧いてこないでしょうから。
でも、アレンジとシンセの演奏という面から見たら、キースは偉大だと思います。特に、楽器を壊しながらの演奏なんてすごい、と。

ヒースとヴァージルとジャスティンはELPメンバーそのものですね。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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