聖母教会でのコンサート顛末記

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ヨハネット・ゾマーが、秘密の無料コンサートをわが町の聖母教会で行う、という情報を独自にキャッチして以来、本当に誰でも無料で聴けるのかとかいう不安が、ずっと付きまとった。

だから、前日に教会まで下見に出かけた。すると、入り口正面、他の業務連絡・お知らせの張り紙に埋もれていたポスターが、立て看板に張り出されている。そして、手書きで20:00と書き加えられている。教会関係者が、わたしのブログを読んだとした思えないような、見事な対応である。
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会場となる聖母教会は、オランダで2番目に古いもので(1番古いのは、やはりマーストリヒトにある聖セルファァース教会)、ちょっと変わったロマネスク建築である。
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   後陣脇の塔上部に、菱形が組み合わさって乗っかってるのが、ラインランド風。
         近くから見上げると、アシンメトリーで不安定に見える。

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         正面は城砦のようで、厳つく、取り付く島がない印象。

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          正面左脇の、海の星チャペルが教会入り口。

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          赤子のキリストを抱いた可憐なマリア像の前には、
          お祈りの人とろうそくの炎が絶えない。
          お祈りの人の邪魔にならないように、外からそっと撮影。
          マリアとキリスト像は、小便小僧なみに衣装持ち。

マリアに捧げられたこの教会が、ローマ教皇によって以下の特権を付与されたバシリカになったのが75年前で、それを記念してのコンサートのために、ヨハネット・ゾマーが呼ばれたのだ。

ここでいうバシリカとは、建築様式のことではない。格上げされた教会のことである。
「一般の教会堂より上位の教会堂として扱われる権利」
「オンブレリーノ(主祭壇に向かって右手に通常置かれる教皇専用の傘)を備える権利」
「ティンタナバラム(教皇を象徴する鈴)を備える権利」 
「政務日課において、聖堂参事会が、特に格式の高いものとされている儀式用の衣装である大カッパを着用する権利」 
                   以上ウィキペデシアのバシリカの項より抜粋。 

そういう特別コンサートならば、なぜ大々的に宣伝しないのか、疑問は残ったままである。
町なかにポスターは見かけず、教会入り口に張り出されているのが1枚だけだし、コンサート詳細は、教会HPを見ない限りわからないのだ。

ともあれ、叔父叔母や日本人の方にも声をかけた。念を入れて、コンサート開始30分前に入り口で待ち合わせた。入場してみると、まだ中には数人しかいない。開始時間になってようやく100人くらい集まっただろうか、という程度である。
前から3列目、正面通路脇に陣取った。祭壇の下に敷かれた1畳くらいの絨毯がステージ代わりで、向かって右側に伴奏のテオルボ奏者のための椅子と譜面台が置かれている。

まず、祭壇上で主催者の教会参事が、コンサートの趣旨を説明した。以下、その概略。
バシリカ75周年記念と塔の修復費集めのため、地元の詩人でありマーストリヒト大学文学教授が詩を作り、朗読するから、コンサートの後で、彼のサイン入りの詩のポスターを寄付として買って欲しい。
コンサートで歌われるのは、マリアを讃える歌で、初期・中期・後期バロックの音楽の珠玉を集めた。ソプラノ歌手ゾマーとテオルボのフレッド・ヤーコブスは、コンビを組んで久しく、世俗曲のCDは数枚出しているが、この二人で宗教曲を演奏するのは実に始めてであるそうだ。

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Johann Hieronymus Kapsberger (ca.1580 - 1651)
Ave Sanctissima Maria
Sancti Angeli
Passacaglia

Claudio Monteverdi (1567 - 1643)
Salve, Regina
Pianto della Madonna
Laudate Dominum

Heinrich Schutz (1585 - 1672)
O susse, o freundlicher
Ich wil den Herren loben allezeit

Nicolas Hotman (voor 1604 - 1663)
Passacaille

Marc-Antoine Charpentier (1643 - 1708)
Alma Dei Creatoris
Salve, Regina
Stabat Mater Dolorosa

Robert de Visee (ca. 1660 - na 1732)
Chaconne

Henry Purcell (ca. 1659 - 1695)
Evening Hymn

2,3曲モテットやカンタータを歌った後で、テオルボ独奏のパッサカリアやシャコンヌなどが入り、詩人自身による詩の朗読、という繰り返しだが、確かにバロックの長期・広範囲にわたる、マリアを讃える歌を集めた構成だ。
ゾマーは、黒と白の太縞ストライプのショート・ブラウスに引きずる長さの黒のロングスカートといういでたちで、教会でのコンサートにふさわしいシックでエレガントな姿。いつも変わらぬ、甘い味わいの耳に優しい歌声を聴かせてくれる。
テオルボのヤーコブスの独奏も聴かせる、というのは、非常によろしい。そうでないと単に伴奏者みたいになってしまって影が薄くなる。

かなり変化に富む曲目と内容で、普通のコンサートよりは短いが、これがタダでいいんだろうか、といぶかった。寄付金を集めるのが目的なら、もっと大々的に宣伝したらいいし、ライブ録音してCDとして売り出したらもっとよかろう。このコンビによる宗教曲演奏は初めてだというし、合間に詩の朗読も入り、特別色は濃いのだから。

ゾマーのサイトを見ると、カッチーニ他の曲目と書いてあるが、当日カッチーニの曲は歌われなかった。
カッチーニの「新しい音楽」は、彼女もCDを出しているからナマで聴きたかったが、コンサートのテーマはマリアだから、歌うとしたら「アヴェ・マリア」になっただろう。この、カッチーニ作と言われる「アヴェ・マリア」は、恐ろしくゲテモノ的で趣味が悪く、苦手である。彼女がこの歌を歌ってくれなかったことに感謝する。

最後の締めは、パーセルだ。世俗曲のリサイタルだったら「しばし楽の音に」を歌ったに違いないが、マリアがテーマとあって、やはり夕べの賛美歌が妥当だ。彼女の甘い声で歌われる英語の歌は、ぞくぞくする。

皆口々に「心が洗われたわね」と満足して教会を後にしたが、集まった面子に元祖バッコスの信女達3人がいたから、「精進落とし」と称して、夜の街に繰り出し、タパス・バーで夜更けまで盛り上がった。

       
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by didoregina | 2009-10-18 13:11 | バロック | Comments(4)
Commented by アルチーナ at 2009-10-20 10:32 x
無事に秘密コンサートに潜入できて何よりです。
それにしても100人でなんて贅沢ですね。コンサート会場と違って教会はまた、響きも良いでしょうし、本当に至福の時間が過ごせそうです。
バシリカとはそのような意味もあるのですね。
教会も茶道などのようにピラミッド構造組織になっているのですね。

小便小僧並みに衣装持ち・・ウケマシタ!
Commented by レイネ at 2009-10-20 15:45 x
アルチーナさま、潜入レポですか、これは。
本当に贅沢な至福の時でした。でも、この教会、響きがよすぎるのでちょっと心配だったんです。合唱だとわんわん反響して、もう何歌ってるのかまったく聞き取れません。ソロの歌とテオルボという小さな音による演奏だったのがよかった。
大層な名目のコンサートだということで、聴衆はビビリ気味で、演奏者が登場しても、曲が終わっても全然拍手なし。最後のパーセルの曲が終わったら、主催者が拍手したので、聴衆もほっとして追従。だって、「受難曲」演奏会みたいに、拍手しちゃいけないのかとみんな思ったんですよ。
Commented by Mev at 2009-10-20 21:30 x
夢のようですねえ。 100人ほどの前でそんな素晴らしい歌い手が素敵に歌ってくれるなんて。しかも寄付はするにしても、入場無料だなんて!  でも、そうですか、拍手も遠慮するほどに聴衆も緊張していたんですね。 その人数では確かに聞く側も緊張するかもしれませんね。 ああ、でもうらやましいです~。
Commented by レイネ at 2009-10-21 00:21 x
Mevさま、まずは最初の難関をクリアでき、満足です。(ロール・プレイ・ゲームか、これは)
CDでも販売してくれたら買ったのに、詩集や詩人のサイン入りポスターなんて要らないから、寄付だけしました。
でも、あまりにも聴衆が少ないってのも、演奏する側にとってはつまらないでしょうから、もう少し教会側が宣伝に努めるべきでした。少なくとも、コンサート日時と入場無料とは明記すべきだわ。ギャラはいくらか貰えたんだろうか、と心配になりました。


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