シモーネ・ケルメスのヴィヴァルディ・モテット集 Amor Sacro

先日sarahoctavianさんがブログ記事にされた、シモーネ・ケルメスの動画の印象があまりに強烈だったので、つい、デパートのCD売り場のバーゲン宝の山からみつけて、手にとってしまった。

c0188818_20415247.jpg

         バロック界のニナ・ハーゲン、シモーネ・ケルメスが
         歌う、ヴィヴァルディのモテット集

パンクおばさん的な表情も歌い方も声も、あまり好みのタイプではないなあと、動画を見て思ったのだが、安さには負けた。しかも、オペラ・アリアではなく、ヴィヴァルディの宗教曲を歌うというので、怖いもの聴きたさもあった。清らかな天使のようなソプラノで歌われることが多いバロックの宗教曲ジャンルにおいて、彼女の魔女的キャラクターは強烈で個性的である。ぬるま湯のようなコンフォート音楽に浸るわたしにカツを入れてくれるだろう。

最初の出だしを聴いたとたん、唐突に思い出したのはナイジェル・ケネディ演奏のヴィヴァルディ「四季」である。彼もパンク的風貌と演奏でクラシック界に殴り込みをかけたのだ。パンクつながりである。ここでの演奏は、アンドレア・マルコン率いるヴェニス・バロック・オーケストラであるが、攻撃的な音でガツンとかますという姿勢は、ケネディに近いものだ。

そして最初のモテットでの、ヒステリックな高音のケルメスによるアリア。これを聴いて、「ああ、もうだめだ」と思った。買ったことを後悔した。耳をふさぎたくなった。
しかし、我慢して聴いていくと、ダ・カーポ・アリアにはさまれたレチタティーヴォの優しい歌声に心の平安を取り戻した。
全4曲のモテット全てが、アリア、レチタティーヴォ、アリア、そしてアレルヤで締めるという構成になっていて、攻撃的なアレグロのアリアの後はラルゴで心を和ませたり、またはその逆だったりして、決してヒステリックな雄たけびだけに終始しない。ヴィヴァルディの作曲技法に感謝する。

c0188818_2241886.jpg


自身も聖職者であったヴィヴァルディが、カトリックのミサのために作曲したモテットの歌詞は、ラテン語で書かれている。英独仏語の対訳つきなので、語学のお勉強には最適だ。その歌詞を読むと、当然ながらいずれもがキリストを讃える内容である。叙情的な雅趣さえ感じられる歌詞に、よくもこれほど激しい音楽を付けたものだと感心する。

4曲のモテットの中には、嵐が吹き荒れるような箇所が必ず入っている。しかし、何度も繰り返し聴いているうちに、ケルメスの声に慣れたのか、最初の一声を聴いたときのような不快感は感じなくなった。歌いぶりには、彼女の身振り手振り、唾の飛ぶところまで目に浮かぶ。
まったりとは正反対の、ビシバシという感じのこういう刺激も時には快感になってくる。危ない、危ない。

でも、やはり心が落ち着くのは、ゆったり静かに歌われるラルゴやラルゲットのアリアを聞いた時だ。そういった箇所の歌い方は、かなりフツーっぽい。器楽演奏もそれに合わせて、弦楽器の荒々しさは退けてオルガンやリュートなどを軽やかに響かせる。しかし、それに安心して心を任せていると、必ず平手打ちのようなしっぺ返しを食らうのである。急と緩の対比があまりにはっきりしていて、それが必ず交互に現れるので、聴いていて眩暈さえ覚える。ヴィヴァルディは躁鬱タイプだったのか?

CDよりどり2枚で15ユーロ!という宝の山は、実りの秋の森のようなものだった。食えそうなものも原色の毒キノコもごちゃ混ぜであった。最初は舌が痺れるほどだったケルメスの毒も、耳が慣れればそれも風雅と、1日経ったらまるで、食通のように振舞えそうな域に達した。

解毒剤として、マグダレーナ・コジェナが歌う「ラメント」というCD、大バッハおよびヨハン・クリストフ・バッハ、カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ、ヨハン・クリストフ・フリードリッヒ・バッハのバッハ・ファミリーとコンティ作曲のカンタータやアリアなどを集めたものを抱き合わせで買った。
[PR]
by didoregina | 2009-10-16 14:57 | CD | Comments(10)
Commented by sarahoctavian at 2009-10-16 22:48 x
あはは~レイネさん、お疲れ様でした。私もあの動画を見て以来、スピーカーから流れてくる歌声にあの姿が重なってしまいツバをよけながら聞いてるわよ(笑)。喜怒哀楽メリハリがあって結構楽しませてもらってます。
Commented by アルチーナ at 2009-10-17 11:01 x
レイネさま、すばやい!!
確かにケルメスの服装の感じといい、ナイジェル・ケネディと通づるものがありますね。
VBOは結構来日しているので何度かコンサートに行っていますが、カルミニョーラ(Vo)が参加しないとそれ程激しい演奏はしないというイメージを持っていましたが、ケルメス姐に引っ張られているのかしら?
Commented by レイネ at 2009-10-17 18:17 x
sarahoctavianさま、ケルメス姐(<-アルチーナさん命名)のご紹介ありがとうございました。あの動画を見て、大げさに言えば、わたしの人生は変わってしまいました。よもや、このようなCDが我が家の敷居をまたぐとは。。。
これからも、偏見にとらわれずに、新たなジャンル開拓をしていきたいので、お勧めがあったら、教えてくださいね。
Commented by レイネ at 2009-10-17 18:38 x
アルチーナさま、VBO通の貴女のおっしゃること、きっと当たってるんでしょう。ソリストとのアンサンブルを重んじるんじゃないでしょうか。攻撃的にすら感じられる箇所がけっこうありましたが、そのあと必ずふんわりと優しくなり、柔軟性がある演奏です。緩急自在、硬軟織り交ぜ、音色のパッチワークのようです。
Commented by Mev at 2009-10-17 18:49 x
解毒剤を必要とするCDとは、まあ、これはまたすごい、と思うばかりであります。私にはまだ聞く覚悟ができていません。。。。でも、CDほしい!!という思いは抑えかね、給料が入ったので(!)とりあえずピオーを。バルトリの例の恐ろしいジャケットCDは買う勇気が起きないので、イル・ジャルディーノ・アルモニコのヴィヴァルディ協奏曲集を買うことにいたしましてHMVにオーダーしました。明日届くので楽しみ!
Commented by レイネ at 2009-10-17 19:19 x
Mevさま、お給料が入ってご同慶の至り。1ヶ月の過酷な(?)労働の貴重な報酬、使い道を考えるだけでも楽しいですよね。
本当は、ヴィヴァルディでは、コジェナの新譜が欲しかったんですが、まだちょっと高いのでやめました。

イル・ジャルディーノ・アルモニコと聞いて思い出したんですが、今月末、エウロパ・ガランティのファビオ・ビオンディが、ファン・ワセナール古楽コンテストおよびフェスティヴァルのアーチスト・イン・レジデンスとして招かれ、基調講演やマスタークラスなんかを行います。世界各国の若い古楽アンサンブルがコンクールに参加するし、無料のコンサートもあるから、アムスに住んでたら行けるのになあ。
Commented by REIKO at 2009-10-17 21:29 x
このCDとペアになっている、「amor profano」の方を持っています。(こちらはオペラ・アリア集)
あの動画の「Agitata da due venti」も入ってます♪
(これはバーゲンの山にはなかった?)

ヴィヴァルディのモテットは、キング指揮のイギリス勢の演奏で聴いたのが最初でしたが、それでも結構、喜怒哀楽?が激しい曲だな、と思いました。
なので、このCDのメンツだと、さぞかし・・・って思います。
要するにヴィヴァルディ自体が、パンクなんでしょう!
Commented by sarahoctavian at 2009-10-18 00:30 x
やっぱりヴィヴァルディはイタリア人らしく激しいのがお好きだったのでしょうね。英国産は全体的に良くも悪しくも大人いのだと私もやっと傾向が分かってきました。その時の気分で聞き分けすればよい?ところでドイツ・アマゾンではamor sacroとprofano各9,95ユーロで売ってる~私もこのさい両方注文しちゃおうかなああ。コジェナーのヴィヴァルディ・アリア集もよいですねぇ。コジェナーは髪振り乱しドポ・ノッテ動画が陰なインパクトの強さだったので、彼女もライブで見てみたい気がする・・・。
Commented by レイネ at 2009-10-18 09:11 x
REIKOさま、そうかあ、ヴィヴァルディこそ元祖パンクなんですね。そういえば、彼の肖像画を見ると、赤毛で目つきもシド・ヴィシャスみたいだわ。なぞが解けました。
バーゲンの山は、時間をかけてゆっくり探しましたが、また来週、雨上がりでキノコが増殖してないかどうか見に行ってみます。
Commented by レイネ at 2009-10-18 09:22 x
sarahoctavianさま、パンク・バロックなら、やはりヴィヴァルディなんですね。わたしは、パティ・スミスが好きだから、クラシックで彼女っぽい人がいたら即買うんだけど。

コジェナだけのやソロ参加してるのあわせると、手持ちCDの中では彼女がやたらとハバをきかせてます。それで、凄く気に入ってるのと、あまりピンと来なくて1度聴いただけで捨てられてるのと両極端に分かれます。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧