Al Ayre Espanolによるハイドン「十字架上の7つの言葉」

ユトレヒト古楽フェスティヴァルでのアル・アイレ・エスパノールのコンサートに行ってきた。

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            ユトレヒトと言えば、ご当地キャラはミッフィー。
            ミッフィー形の信号を発見!

古楽フェスティヴァルとしては、相当大規模なこのユトレヒトのフェスティヴァルは、もう30年も続くもので、確固たる地位を築いた恒例の伝統行事になりつつある。
今年のテーマは「イギリスに渡った3人のドイツ人」で、すなわち、いずれもメモリアル・イヤーの作曲家達、ヘンデル、ハイドン、メンデルスゾーンの作品を、2週間近く朝から晩まで、様々な演奏家やアンサンブルが腕を競って聞かせてくれるのである。
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             コンサート会場のヤコブ教会

まず、日帰りで可能な演目を選んだが、第一および第二希望のコンサートは、すぐに売り切れた。
夜のオペラなどは、最初から諦めていた。
それで、第三希望のコンサート・チケットをなんとかゲットした。

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ハイドンの「十字架上の7つの言葉」には、管弦曲版、弦楽四重奏版、ピアノ版、オラトリオ版があり、その全てが今回のフェスティヴァルでは演奏される。
フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ演奏のオラトリオ版のコンサートが、第一希望であった。ソールドアウトになったので、それに近いアル・アイレ・エスパノールによる管弦曲版を聴きに行った。予習用として、4月に発売されたブリュッヘン指揮18世紀オケの管弦曲版CDを買って、本番に臨んだ。
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ブリュッヘンのCD(Bとする)とエドゥアルド・ロペス・バンゾ指揮アル・アイレ・エスパノールの生演奏(Aとする)とでは、楽器編成は多分同じだが、まずなんといっても、出だしのテンポからして違う。
予想がつくだろうが、Bのほうがテンポが速い。18世紀オケによる、淡々と疾走する序章に慣れた耳には、悠揚迫らぬテンポのAの演奏が、妙にロマン派っぽく聞こえるのだった。情感があふれ出すようで、濃いのである。オランダ人とスペイン人の血の濃さの違いか、と頓珍漢な感想を思わず口走ってしまいそうである。

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       開場前、教会脇に三々五々と集まりたむろするオケの面々

「十字架上のキリストの最後の7つの言葉」をモチーフにした7つの章(ソナタ)プラス、序章と大地を揺るがすフィナーレとで構成されている、このハイドンの曲は、よく考えたら、受難シーズンの音楽のはずである。
実際、聖週間のカディス司教によるミサのために作曲されたものだ。バッハの受難曲だったら、完全にキリスト教の暦に即して、復活祭前の受難週に演奏されるのが、ここプロテスタント・オランダでは伝統年中行事のようになっている。日本での師走の「第九」のごとくで、それ以外の季節に演奏されても有り難味がないから、ぴんと来ないし、客も来ないだろう。それより、そんなことをしたら、主催者と演奏者側の常識が疑われる。それが、ハイドンの曲だったら、キリストの受難がテーマであっても、季節外れの演奏会も許されるというのが、ちと解せない。

それよりも、教会の割と殺風景な窓から入る光の加減もうららかで、Aによる演奏を聴いていると、苦難とか受難よりも、暖かく包まれるような幸福感が強く感じられるのだった。北ヨーロッパのアンサンブルによる古楽演奏にありがちなストイックさとは逆で、真面目で優等生っぽい演奏なのにケレンミすら少々ある。こういうを指して、ナマで聴くアンサンブルの妙、とでも言ったらいいのか。

大体、わたしにとってのハイドンは、楷書の名人みたいなイメージである。
古典派らしく、きっちり四角四面で、生真面目さが行間から表れるような音楽である。
それに対してロマン派の音楽は、行書のイメージである。かなり自由闊達に感情の動きが筆遣いに込められている。
それが、Aによる演奏は、どうもかなり、行書に近いのだった。
そして、最後にはとどめのフィナーレ「地震」で締める。

フィナーレに行き着く前の、暖かな演奏を聴きながら、頭に浮かんだのは、万葉集の
「うらうらと照れる春日にひばり上がり、心悲しも独りし思へば」(大伴家持)
だった。

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         終演後、うれしそうに抱き合う演奏者達
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by didoregina | 2009-08-31 17:44 | コンサート | Comments(3)
Commented at 2009-09-01 21:37 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by アルチーナ at 2009-09-02 09:31 x
アル・アイレ・エスパノールはリテレスの『四大元素』では好印象だったのですが、ヘンデルの『ゴールのアマディージ』ではアリア単体では良い物もあったのですが全体を通して聴くとちょっとピンとこなくてちょっと放置していました。
又改めて聴いて確認しなきゃ!と思いました。
Commented by レイネ at 2009-09-02 16:28 x
アルチーナさま、Aによるこの曲の演奏をCDで聞いたら、きっと違う印象を持ったと思います。Bにくらべて、のんびり、まったりしてるから、緊張感や刺激が足りないと感じるんじゃないかと。ナマ演奏だったのが好印象の元だと思います。
大体、わたしはナマに最初に接すると、好きになる場合が多いので。(<-ダニエルちゃんを除く。最初から全く肌が合いませんでした)

横から指揮者を見る位置の2列目の席だったので、指揮者のバンゾの口から漏れるヒューヒュー、シューシューいう音が、ずっとうるさかったんですが、まあ、これも生演奏の醍醐味かと。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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