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E la nave va   そして船は行く

夏になると、野外では、コンサートのほか映画上映会も行われる。
Cinema Lunaという、市民公園や広場などでの野外映画上映企画は、もう数年続いているので、すっかり夏の風物詩になった。
本日は、フェリーニの83年作映画「そして船は行く」が、夜10時からボネファンテン美術館の外で上映された。

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この映画は、どういうわけか見ていないし、明日からヨットでイギリスに渡ろうというわたし達にはうってつけのタイトルだから、見逃すわけにはいかない。

野外の催しものは、天候に左右されるが、今日は久しぶりに夕立が一粒も降らなかった。
アルド・ロッシ設計のドーム型の塔の外壁にスクリーンが設置され、塔の中はカフェだから、外に椅子が100席は並べられている。飲み物の注文もできるし、トイレもあるから公園なんかよりずっと便利だ。
しかし、夜10時ではまだ明るい。だから、実際に始まったのは10時半くらいからだった。


この映画の冒頭場面は、モノクロで無声映画風に作ってある。ご丁寧にフイルムをまわす音だけをかぶせたり、わざわざ途中で止まったりさせているので、「ええ~、あの頃の映画って白黒で音もないの?あ、止まっちゃった」などと言いながら、音声が聞こえないのをいいことにおしゃべりしている人が多い。
それが、すこしづつ色が付いていき、動きもギクシャクしなくなり、音も入るようになって、みんな安心したようだ。
E la nave va       そして船は行く_c0188818_8255235.jpg

そこまでがプロローグで、音のない序曲みたいなものだった。
その後は、出演者達のコーラスになり、まるでオペラである。主な出演者は、オペラ歌手や指揮者という設定だからだ。
亡くなった偉大なオペラ歌手(マリア・カラスがモデル)追悼のために、彼らは豪華客船に集まったのだ。

フェリーニの分身のようなジャーナリスト、オルランドが、狂言回しのナレーターであるのは、彼の映画によく見かけるパターンであるが、「8 1/2」のマルチェロ・マストロヤンニのようなかっこいい中年ではなく、83年当時のフェリーニの実年齢に相当するおじいさんだ。
取材手帖を手にした彼が、登場人物を紹介していく、という手法でストーリーが進む。

全ての場面がオペラのように芝居がかって、作り物っぽいのが、またフェリーニらしい。航海する船も海も全部、チネチッタでのスタジオ・セット撮影だからだ。
コロッシオに水を張り、海戦スペクタクルを行ったという、古代ローマの伝統を踏襲しているとも言える。

また、音楽が単なるバックグラウンドではなく、重要な小物としてきちんと使われているので、数小節だけ流れて消える時のような欲求不満が残らないのが、うれしかった。

水を張ったコップでシューベルトの「楽興の時」第3番を最初から最後まで見事に演奏するのを聞かせてくれたり。



機関室を見学に来たオペラ歌手達が、労働者の要望に応えて、次々と自慢の喉を披露したり。



途中で、セルヴィアからの難民を乗船させてから、第1次世界大戦前夜の政治取引が絡むのがちょっと退屈だった。(オーストリアの大公も乗船していたので。)

タイタニック沈没ほどの緊張も見せ場もないが、最後に船は沈む。しかし、大半の人は助かるというのも、フェリーニらしい。悲劇は彼には似合わない、というより、映画と悲劇は彼の中では相容れないものなのだろう。

E la nave va       そして船は行く_c0188818_8444196.jpg

沈没した船から、犀とといっしょに逃れたオルランドの台詞、「犀のミルクは美味しいから助かった」で幕。

とにかく、フェリーニ映画の正に集大成で、賛否両論が多い作品だが、彼らしさとシネマトグラフィーの手法全てが凝縮しているようで、映画という芸術手段へのオマージュだと捉えると、まあまあいい作品だと思った。
フェリーニからの、わたし達の航海へのはなむけだと思うことにしよう。
by didoregina | 2009-07-17 01:54 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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