マクロプロス事件@Muziektheater in Amsterdam

ヤナーチェクのオペラ「マクロプロス事件」が、今年初めてアムステルダムの歌劇場で鑑賞するオペラとなった。そうこうするうちにシーズンも終わりに近い。アムスは家から遠いので、日曜日のマチネでないと日帰りは無理だ。そして、有名な出し物のマチネ・チケットはすぐに売り切れになってしまう。超マイナーなバロック・オペラだから、直前まで売れ残っているだろうと高をくくっていた「恋するエルコレ」でさえ、売り切れで行けなかった。しかし、さすがにヤナーチェクのオペラだ。なんとか安い席が残っていた。

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実は、ヤナーチェクはかなり好きな作曲家なのである。そして、彼のオペラだけは絶対にチェコ語上演でなければならない、というのが守るべきルールである。全て作曲家自身による作詞で、しかもチェコ語に即したイントネーションで曲をつけているからで、そうでないと、作品がめちゃくちゃになってしまう。オランダやベルギーでは原語上演主義を守っているから有り難い。

2009年 5月 31日 アムステルダム歌劇場
c0188818_41487.jpgmuzikale leiding  Yannick Nézet-Séguin
regie  Ivo van Hove

Emilia Marty  Cheryl Barker
Albert Gregor  Raymond Very
Vítek, assistent-advocaat  Guy de Mey
Kristina, zijn dochter  Marisca Mulder
Jaroslav Prus  Dale Duesing
Janek, zijn zoon  Andrew Tortise
Kolenatý, advocaat   François Le Roux
Een toneelknecht  Tom Haenen
Een werkster  Annett Andriesen
Hauk-Šendorf  Graham Clark
Een kamermeisje  Bernadette ter Heyne
       
Rotterdams Philharmonisch Orkest
Koor van De Nederlandse Opera


アムスの歌劇場には、今現在、専任の音楽監督がいない。だから色々な指揮者とオケが、各プロダクションごとに演奏を担当している。(2011年から、マルク・アルブレヒトが音楽監督に就任することが決まっている。)
今回のオケは、ロッテルダム・フィルで、指揮は気鋭の新進カナダ人、ヤニック・ネゼ=セガンなので、期待して臨んだ。彼は、ゲルギエフの後任として、2008年からロッテルダム・フィルの主席指揮者になったのだ。

たまたま、このマチネの前日に、家の近くのホールでネゼ=セガン指揮ロッテルダム・フィルのコンサートがあった。音楽の先生は、ロッテルダム・フィルはコンセルトヘボウ・オケと双璧なんだから、これは絶対に聞き逃すな、とご推奨であったが、ソリストが好きじゃないのでパスした。どうせ、次の日にアムスで聴くんだし。
いや、しかし売れっ子というのは大変だ。南部の町で夜に演奏会を行い、次の日には300キロ離れたところでオペラのマチネ演奏なんだから。

座った席は日本式に言うと2階、左脇最後列で、寝そべるか前に乗り出さないと字幕がよく見えない位置だが、舞台装置と指揮者を眺めるには、とってもいい。
まだ35歳と若いネゼ=セガンは、上着を脱いで、妙に体にぴったりした黒いTシャツのようなものを着て、エネルギッシュでしなやかに上半身を動かす、美しい指揮振りである。なかなかカリスマ性がありそうで、見とれてしまう。やっぱり、若い指揮者は、体を張った指揮がいい。ドラマチックで美しいヤナーチェクの音楽との相性もよろしい。

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舞台装置は、空港のラゲッジ・クレームみたいなターンテーブルで、床の上のレールがぐるぐる回り、それに小道具を載せるというシンプルなつくりである。特に背景デコールはない。全体に、陸上競技のトラックのようでもあり、刻々と減っていく時間のデジタル・ディスプレーで、主人公の命の残り時間を表していることは明らかである。

カレル・チャペック(!)原作によるストーリーは、端的に言うと、八百比丘尼のお話である。
こちらの比丘尼は、人魚の肉ならぬ父親が作った不死不老薬を飲まされたおかげで、337年も生きている。現在は、エミリア・マーティと名乗るオペラ歌手である。
何百年も生きていて、死ぬことが叶わない、というのは大変退屈でつらいことだ、と想像するが、西洋の八百比丘尼は、日本の八百比丘尼のような無常の諦観に支配されてはいない。まだまだ、次々と男を変えては飽くことを知らず、しかもこれから後も若く生き続けたいという思いが根底にあるから、彼女はどちらかと言うとファム・ファタールである。オペラ・ディーヴァにうってつけのヴァイタリティーである。

主人公役は、オーストラリア人ソプラノのチェリル・バーカーで、この役は当たり役らしく、チェコ語の歌唱も堂々たるもの。ドラマチックだが重過ぎない声で、華やかなルックスもオペラ歌手役にぴったり。まるで彼女のために作られたオペラみたいだ。

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主人公は、不死不老薬のヒミツを書いた文書を再び手に入れようと画策しているうちに、昔の男に再会したり自分の子孫に出会ったりして、果てのない長寿のむなしさに次第にさいなまれるようになってくる。かなり複雑な事件を解決に導くが、最後には生きる意欲を失ってしまうのだった。
最後の10分が、なかなかに音楽も劇的で、クライマックスに登りつめていく。主人公が息絶えるのとデジタル表示が0になるのと音楽が終わるのが同時でなければならないから、この10分間はサスペンス風で観るほうははらはらどきどきしてしまう。

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男性歌手が沢山出てくるが、昔の恋人はじめ老人が多く、若い男にも魅力があまり感じられない。主人公の一人舞台みたいなオペラなので、男役はどうでもいいと言えばどうでもいいのだ。
しかし、その中で、主人公が昔スペインで芸人だった頃の恋人、今は爺さんになってるこの人のテーマ・メロディーが、ヤナーチェクお得意のジプシー的な旋律なので、暗くて重苦しいお話の中で、すこしコミカルな要素が出てきてほっとできた。

休憩なしで2時間弱だが、緊張感のあるオペラだし、ヤナーチェクのオペラのチェコ語上演を観ることができて、満足であった。
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by didoregina | 2009-06-03 22:37 | オペラ実演 | Comments(4)
Commented by Mev at 2009-06-05 03:03 x
面白かったですよねえ!こういう作りも楽しいなあと。 あっという間に時間がたったなあという印象でした。ほんと指揮者が若くて一番素敵。
Commented by レイネ at 2009-06-05 20:27 x
Mevさま、演出はシンプル、オーソドックスだし、セットにもあまりお金がかかってない感じだけど、その分、音楽に集中できてよかったです。
ネゼ=セガン、注目すべし!ですね。来シーズンも、オペラの指揮するのかしら、と思ってチェックしたら、5月に「トゥーランドッド」!知ってる歌手は出ないけど、有名なオペラだから、チケット取りにくそう。一応マチネは3回あるから、なんとかがんばります。
Commented by マリナ at 2009-06-08 18:25 x
ヤナーチェク、私も大好きな作曲家の1人です。
この作品はまだ見たことありませんが、筋も面白いし演出もいいですね。読んでいてこっちも緊張しました。

「利口な女狐」「イェヌーファ」ここの劇場ではドイツ語上演でした。私も原語(チェコ語)で聞きたかった・・

ところで、今日やっとブログにリンク集をつくりました。
レイネさんのブログもリンク貼りましたので、事後報告になってしまいましたが、ご承認お願いします。
Commented by レイネ at 2009-06-08 22:45 x
マリナさまも、ヤナーチェク大好きですか!彼のオペラと、ピアノ曲と、ヴァイオリン・ソナタと、そして弦楽四重奏曲が好きなんですが、ファンだ、と公言する方には出会ったことがありませんでした。
チェコだったら絶対、チェコ語上演のはずですから、一度プラハに行かれてみては?

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