ORWの「椿姫」

今年に入って、毎月観ている王立ワロン歌劇場のオペラ、今回は「椿姫」である。
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ヴェルディのオペラには好きなものは少ないのだが、「椿姫」だけは別格だ。甘美な音楽、分かりやすく冗長でないストーリー展開、有名なアリア、お涙頂戴、とイタリア・オペラのいいところだけをてんこ盛りにしている、とてもよくできた作品だからだ。お話に無理がないため、音楽上も無駄がないのも好きな理由だ。

だからこそ、いい歌手を揃えてトータルでいい舞台を作り上げないことには、上質の素材が生かされないまま、下手な田舎芝居になってしまう危険性もある。

Direction musicale   Paolo ARRIVABENI
Mise en scène   Stefano MAZZONIS DI PRALAFERA
Décors   Edoardo SANCHI
Costumes   Kaat TILLEY
Lumières   Franco MARRI
Nouvelle production    OPÉRA ROYAL DE WALLONIE


Violetta Valéry   Cinzia FORTE
Flora Bervoix   Tineke VAN INGELGEM
Annina   Federica CARNEVALE
Alfredo Germont   Antonio GANDIA
Giorgio Germont   Giovanni MEONI
Gastone di Letorières   Cristiano CREMONINI
Barone Douphol   Chris DE MOOR
Dottor Grenvil   Lorenzo MUZZI
Marchese d'Obigny   Patrick DELCOUR
Giuseppe   Marcel ARPOTS
Un commissionario   Marc TISSONS
Un domestico di Flora   Youri LEL
Orchestre et Choeurs  OPÉRA ROYAL DE WALLONIE
Chef des Choeurs   Marcel SEMINARA

イタリア人とスペイン人で主役を固めた今回のキャストでは、主役二人は、視覚的にも音楽的にもよくマッチしたカップルだった。
ヴィオレッタ役のチンツィア・フォルテは、ふくよかで温か味のある清楚な声質で、好きなタイプである。(2年前にアムステルダムのDNOで「ルチア」を歌っている。)



ただ、一幕目はどうもパワーをセーブ気味で、声量を抑えていただけでなく、高音に精彩が感じられなかった。大好きな「不思議だわ ~ ああ、そはかの人か ~ 花から花へ」で、気分を高揚させてもらいたかったのに全然盛り上がらなかったのは、マイナス点である。しかし、徐々に本来の力を発揮していったようで、2幕目後半以降はヴォリューム満点であった。特に死の前の最期のアリアには迫力があった。

アルフレードは、スペイン人のアントニオ・ガンディア。主役二人は小柄で身長も声量も同じくらい、甘い感じの声質も合っている。だから2人だけのときはいい。
それが、パパ・ジェルモンが登場するといただけない。主役二人を食ってしまうほどのオーラと朗々たる声の艶、そして声量は2倍くらいある。彼の一人舞台になってしまうのだった。今回はジョヴァンニ・メオーニ。(写真は別キャスト)
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この二人の場面の後ろには、空から花びらもしくは木の葉のようなものが、はらはらと舞い落ちていた。

演出は、小難しい読み替えなどない正統的なものだ。舞台セットも、華やかな場面では赤が基調で、悲しい場面では白、とはっきりしている。コスチュームは、ベルギーのデザイナー、カート・ティリーによるもので、パパの着ているものなどとってもかっこいい。ヴィオレッタの田舎での衣装は、前から見るとトップとパンタロン、後ろから見るとドレスという凝ったものだった。

だいたい、「椿姫」では、お涙頂戴の場面よりも華やかなシーンが好きなので、2幕目のフローラ主催のパーティーには期待して臨んだ。
これがカジノや劇場付きの豪華な風俗店みたいな感じのパーティーで、レッド・カーペットをランウェイに見立てて、モデルの女の子たちによるファッション・ショー、実は風俗嬢のお目見得といった風であった。そこへお出ましのヴィオレッタも、ハリウッド・スターをパロディにしたようなラス・ヴェガス調のお下品で華やかな、裾を引きずるドレス姿だったので、もし私が蜷川幸雄だったら(ありえない仮定だが)、ここは江戸時代の吉原にして、花魁道中に見立てるのに、と想像してしまったが、それはそれなりになかなか楽しい設定で気に入った。

その他の登場人物は、メイクも髪型も衣装もドラッグ・クィーンのようで化け物じみていた。上に揚げたパパ・ジェルモンの写真を見ていただきたい。妙に顔が青白い。悪者やその他大勢は、こんな幽霊メイクなのだった。
それに対して、やさしい人間の代表、アンニーナや医者は普通のナチュラル・メイクで、こんな風にシロクロつけて善玉悪玉を区別していた。そして、最後に後悔して駆けつけたパパも人間性を取り戻した象徴として、ナチュラルな顔色になっていた。

そしてもう一つ、いつも舞台にあって、ヴィオレッタを象徴していたものとしての、ベッドの存在が忘れられない。
最初のパーティーでは特大キングサイズ、アルフレードとの生活では普通サイズ、死の床ではほとんど赤ちゃん用かと思えるほど、その大きさがだんだん小さくなっていくのだった。彼女の生気をこれで表現しているのだろうか。

ひさしぶりのイタリア・オペラで、ストレートにオペラの愉しさを満喫できた夜だった。

2009年 2月28日 at Parkstad Limburg Theater in Heerlen


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by didoregina | 2009-03-30 00:14 | オペラ実演 | Comments(6)
Commented by アルチーナ at 2009-03-30 17:40 x
色がきれいそうな舞台ですね。
赤と緑がメインの色なのでしょうか・・?
結構色のキレイさだけでも幸せな気分に浸れるので重要ですね。
花魁道中!いいですね・・歌手は大変そうですけれど・・
でも全てのシーン、吉原舞台で行けそうですね!
そういえば蜷川みか初映画監督の「さくらん」吉原が舞台だったのですが、色使い、キレイでしたよ!!
Commented by レイネ at 2009-03-30 18:16 x
アルチーナさま、舞台装置は、場面によって赤か白が基調でした。(赤い椿、白い椿、白い雪がバックに大きく投影されて。)
コスチュームは、ポップで明るい80年代調。

そうなの、だれか吉原を舞台にした「椿姫」を作ってくれないかと期待してるんです。原作にない封印切りシーンを入れたりして。。
義理や世間体のしがらみは、そのまま生かせると思うんです。
「さくらん」の世界になるか、「さゆり」の世界になるか。。。
Commented by Mev at 2009-03-31 05:05 x
わー、すてきですねえっ!この舞台は見てみたいですが、無理なのでDVDにならないでしょうか。。。
いつかテレビで(Raiunoかな)屋外のマルクト広場のような所を舞台にして椿姫をやっていました。最後のシーンでは救急車がきて、おもしろいなあ、と思った覚えがあります。
Commented by レイネ at 2009-03-31 06:19 x
Mevさま、ORW渾身のプロダクションだから、DVDになるかもしれませんが、「椿姫」はもう沢山ありすぎるから、どうでしょう。
Raiuno見てるんですか?なんだかいつも同じようなトークショーか、政治討論か、Deal or No dealか、ミスなんとかを選ぶ番組ばっかりみたいな印象で、しかもイタリア語は全く分からないので、ほとんど見ていませんが、そうか、オペラやることもあるわけですよね、イタリア国営放送なんだから。
Commented by straycat at 2009-03-31 10:52 x
レイネさま
わ~ これは中々センスの良い素敵な舞台ですね。こういう衣装や状況の変更って、すんなり受け入れられるものと、違和感を持ってしまうものと両方に分かれますよね。
最近60年代風のアバンギャルドな衣装でコシファントゥッテの貞操観念云々・・を歌うベルリン(だったと思う)のプロダクションを見たんですが、さすがにミスマッチ感が漂っていて??でした。
これはいわゆる高級娼婦の物語なので、ある程度ちょっとお下品なくらいでもOKですよね。
ビオレッタの「不思議だわ ~ ああ、そはかの人か ~ 花から花へ」にしてもアルフレードの「乾杯の歌」にしても、始まって舞台全体がのってくる前にいきなり聞かせどころの重要なアリアを歌うのって、きっとむずかしいでしょうね。
あと声量ですが、あれはほんとに不思議ですね。男性が女性よりあるというのはわかりますが、反対に女性の方が男性の倍くらいの声量があるときもありますし、個人の資質?響かせ方によるんでしょうか?
Commented by レイネ at 2009-03-31 17:12 x
straycatさま、何事もセンスと匙加減が大事ですよね。ドイツ人演出家によるものは、時にコンセプトが不可解でナンセンスになってしまうものがあってどうも肌に合いません。
むかーし、玉三郎の「椿姫」を帝劇だったかで見たことがあります。彼を主役にしたというだけで、何のひねりもない芝居で、ほとんど大衆演劇だったのは残念。センスがないという見本でした。

「ジョイーーーール」で観客を沸かせて幕にしないといけない1幕目は話のテンポが早くて、聞かせどころアリアが多くて歌手には大変なのかしらね。でも、ここでうまく歌えなかったらブーイングしてもいいと思うんですが、オランダの観客は慇懃無礼なので、心のこもらない拍手でした。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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