Severin von Eckardstein @ Kasteel Rijckholt

今シーズン3度目のゼフェリン・フォン・エッカルトシュタインである。これはレーピン様とタイ記録になるので、追っかけしているかと思われる向きも多いだろうが、彼のほうから3回もマーストリヒトにお出でくださったのだ。鴨がネギ背負ってやって来た、というのは不適切な表現だろうが、ジビエ好きのわたしにとっては、これが実感である。

演奏会場は、我が師ペーターが、レッスンとコンサートのために借りているお城、ライクハルト城の別館であった。
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このお城の広間でわたしも土曜日にレッスンを受けている。室内楽コンサートも普段はこちらで行う。客席とステージの境がなく、インティメイトな雰囲気が室内楽にふさわしいのだが、せいぜい100人までしか入れない。
フォン・エッカルトシュタインくらいのクラスのピアニストとなると、何百人でもお客は集まるが、彼のご希望は200人限定であった。これは、主催者のペーターにとって、芸術とソロバン勘定のせめぎあいになるところである。結局、ピアニストの意見は尊重された。城の敷地内だが堀の外側にある、もと御者と馬車のための館が会場となった。
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ここでは、週末などに、結婚披露宴など各種パーティが開かれる。
今回は、演奏会の後、ハイ・ティーも利用できるようになっていた。

演奏曲目は
シューベルトのソナタ ハ長調 D840
ブラームスのバラード 作品10
アルカンのスケッチ集から12曲(!)
プロコフィエフのソナタ2番 作品14
で、自分のピアノ世界を全開陳します!、とでもいう意欲的なものであった。
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まあ、1曲目のシューベルトは、ソナタでも大曲ではないので軽い手ならしだろう。
別にイチャモンつけるようなところはみつからなかった。

2曲目、これはなかなかに骨太で重厚。ブラームスにしてはとっつきやすくて、唯一好きな曲なのが、ファン・エッカルトシュタインらしいひたむきで純粋な音作りが、圧巻だった。ペーターの意見では、これが今回のリサイタル中の白眉だった。彼の音楽性とマッチしていたのだろう。異論はない。

休憩の後、アルカンのミニアチュール作品集から、極短い曲を抜粋して聴かせてくれた。
こういうレアな曲はなかなかナマで聴く機会がないので、選曲としてはいいセンスだと思う。しかも、彼は全部暗譜で弾いた。こういう短い曲ばっかり12曲も暗譜というのは、しんどい作業だ。順番からして忘れそうなものなのに。しかし、アルカンなど聴いたことないという人が多いので、間違えても誰にも分からない、という利点もあるだろう。
実はわたしはアルカンのピアノ全集を持っているが、こういう曲は聴き込むというタイプのものではない。大曲の間の余技とまでは言わないが、たまに誰かが演奏してくれたらラッキー、と思うに留まる曲だが、彼の演奏はそんなレベルではない。真剣勝負である。ほとんど、新たな音楽世界に目を開かされた思いがしたほどだった。


            アルカンのスケッチ集より1番

そして、フィナーレを飾るのは、待ってました、プロコフィエフのソナタ2番。
プロコフィエフはわたしにとって、聴くのも弾くのも好きな作曲家だ。特に体力のある若手ピアニストには好まれる曲が多い。技術上難しいので、聴くほうも弾くほうもそれなりの心構えがいるし、若いピアニストとしてはそれを上手く演奏することで満足感と爽快感も得られるのだろう。だから、どうしても機械のように無機的でアクロバティックな演奏になるか、腕力と指回りの勝負、というだけで終わってしまうことが多いのだ。
それが、フォン・エッカルトシュタインの場合、全く違うプロコフィエフだった。いかな難曲であっても、エリザベト王妃コンクールで優勝した彼にとっては技術上の問題はないから、いかに彼らしい音楽性を表現するかに尽きるのだが、それが意外なことにも、自然で流麗な印象のプロコフィエフだったのだ。例えば、スイスのベルンで街中を流れる川の水が軽快なリズムを清冽に奏でているかのような。プロコフィエフと川の流れという組み合わせで意表を突かれたが、アルプスから直接流れ出る水しぶきの透明な水色が、音楽として聞こえてきたのだった。

今回も満足の行く演奏会だった。
そのあとに控えたハイ・ティーでは、私服に着替えたピアニストといっしょにケーキを食べたりすることができたのは、ペーターの主催するコンサートならではのうれしいおまけである。メトネルのCDを買ってサインも貰った。
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by didoregina | 2009-03-23 17:56 | コンサート | Comments(4)
Commented by Mev at 2009-03-24 02:50 x
レイネさま、またもやロケーションといい、演奏者といい、文句のつけようのない優雅なコンサートに行かれたのですねー!しかも、アルプスの泉のようなプロコフィエフ!ああ、全く想像すらできない素晴らしさ。ただただ羨ましいとしか申し上げられません。
Commented by レイネ at 2009-03-25 06:03 x
Mevさま、ペーター主催のお城コンサートは、雰囲気も値段も文句がつけようがないんです。今回は、ピアニストも特によかったし。演奏者といっしょにワインを飲んだりケーキ食べたりしながらおしゃべりできるのもマル。でも私服に着替えたらまるで学生みたいな彼と並んだ写真を見ると、自分がおばさんだなあ、と改めて感じます。。。

そうそう、主人は22日のフェンローでのハーフマラソン棄権しました。1週間前に今度はふくらはぎを痛めて。Mevさま、これからは体調を整える程度の練習にして、くれぐれも走り過ぎて足を痛めないようにね。
Commented by Mev at 2009-03-25 23:48 x
ご主人さま残念。どうでしたか?と、うかがおうと思っていたところです。 体調を整えるべく、がんばります。ありがとうございます。
Commented by レイネ at 2009-03-26 04:52 x
Mevさま、2回続けて故障のため棄権してしまったので、子供たちからは「本当は出たくないから怪我したふりしてるんじゃないか」と疑いの目をむけられている主人です。去年のベルリン・マラソンに出られなかったから、「ベルリン」が禁句になってるくらいだから、そうじゃないのは明白ですが。
それはそうと、ヴィヤゾンがコンヘボで5月2日に新譜のプロモーションをかねたリサイタルをしますね。例のヘンデルです。まだチケットあるようですから、当日券でアタックしてください。Pさまと比較するのもいいかも。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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名前:レイネ
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性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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