ワディム・レーピン@フリッツ・フィリップス・ミュージック・センター

去年6月から数えてレーピン様にお目にかかるのは3度目である。丁度4ヶ月に1度の勘定だ。あと、5月にケルンに行けば、レーピン様とともに巡る四季が完結する。しかし、あまりに会う回数が多いとありがたみが薄れるのも事実である。

しかし、着て行った着物は、久しぶりの柔らかモノ、手持ちで一番華美な模様のもので、帯も金糸銀糸を織り込んだ2重太鼓と渾身の力を込めた。いわばモネの貴賓席にふさわしいようなキンキラ着物であるので、さすがにコンサート・ホールでは人目を引いた。感嘆の声が降りかかった。それもこれもレーピン様のお目に留まることが目的なのだから、目立つという意味での作戦は成功した。

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プログラムははヤープ・ファン・ズウェーデン指揮オランダ放送フィル(RFO)とのブラームス・ヴァイオリン・コンチェルトとマーラーの交響曲1番である。
長い曲2曲なので、序曲などはなしで、いきなりレーピン様が登場した。
こういうのが苦手である。やはり最初は序曲かなんかでもって、オーケストラの音色とホールの音響に耳を慣らしつつこちらの緊張をほぐしてもらいたいものである。日常から非日常への移行はそう簡単にはいかないのだから、メインの前には前菜が欲しい。

しかも、レーピン様は最初から飛ばしていく。出だしの音から豪快にごりごりさせ、技巧を見せ、聴かせていく。
そして、最初から最後までその調子であった。カデンツァにも甘さはなく、テクニックのご披露である。
なんという変わりようだろう。6月のベートーベン・ヴァイオリン・コンチェルトの時は、技巧を見せつけるときは見せたが、甘く聴かせるときは聴かせた。そして出てくる音楽全体に情熱がほとばしっていた。そのときはヴァイオリンのコンサートなどアンドレ・リュー以外では初めてという人たちを4人連れて行ったが、みんながレーピン様の演奏に感動・熱中した。10月のリサイタルに同行した友人は、レーピン様のクロイツェル・ソナタを聴いて涙が止まらなくなっていた。

レーピンのブラームスVコンには、どうしても20年前の思い出が付きまとう。エリザベト王妃コンクール優勝記念凱旋コンサートでの、みずみずしくて清澄で、どこかほのぼのとした田園的な風景が心に浮かぶような演奏だった。それから、レーピンはどんどん進化していったが、それでも、優勝したコンクールのライブCDを聴けば、現在の彼に通じる音楽性ははっきりと感じられる。テクニックに裏づけされた、きっぱりとした男らしさと芯の図太さである。力強く男性的だが、野卑ではないのがレーピンのレーピンらしいところである、はずであった。
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レーピンの変化を目のあたりにして、思い浮かんだのはベルギー・チョコの味の移り変わりである。
ベルギー・チョコの進化には目を見張るものがある。時代の嗜好にあわせてテイストも変わった。昔は大きくて甘いフィリングが主流であったが、最近はビターなカカオ本来の味を強調し、形もシンプルに押さえスタイリッシュになっている。高級な素材を売り物にしたり、ペッパーやマスタード、緑茶など意表を突く味付けにしたり、甘いものが苦手の人をもターゲットにしている。

ビターな味わいは、もともとレーピンの音楽に存在していたものだ。それを強調し推し進めるとどうなるか。枯れた方向に行くにはまだ年齢が若すぎる。37歳、男盛りである。甘さを捨てた男らしさとテクニックを前面に押し出して行くのが、1つの選択である。特に現在のヴァイオリン界を見渡すと、そういうヴァイオリニストが欠如しているから、明快・妥当なチョイスとも言える。
でも、行き過ぎるとどうなるか。
感動が薄まってしまうのだ。
最近ツアーでよくいっしょに活動しているゲルギエフの影響を受けたんじゃないかと勘ぐってしまうほどの、ごりごりテクニックのてんこ盛りであった。やりすぎて下品に聴こえそうなほどであった。もう少し音楽的にメリハリを付けて欲しかった。
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それでも、ここ一番の着物で張り切って出かけたので、コンサート終了後のサイン会には出た。しかし、売っているCDは最新のブラームスのみである。サインはもういらないや、と思って写真だけ撮っていたが、あまりCDを買う人もいなくてサインの列がすぐに終わってしまった。それで、写真付きのパンフレットにサインをお願いした。言うべき言葉が見つからなかったので、挨拶だけにした。ブリュッセルでは、20年前の出会いの感動から述べたのに、今回は我ながら、あっさりしたものである。なお、間近で撮影したレーピン様の写真がことごとくピンボケだったのも、このコンサートに対するどうにも収まりの悪い私の心境を象徴するかのようであった。

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by didoregina | 2009-03-02 12:07 | コンサート | Comments(8)
Commented by Mev at 2009-03-03 00:21 x
おお!確かに今回のお着物は華やかで、その上春らしいですね。
なんと優雅な週末をすごされたんでしょう。

私は色気もなくまたこの週末はサッカーの試合でフィールドに張り付いておりました。芝アレルギーがでてしまい、顔がひりひりしています。。。。
Commented by レイネ at 2009-03-04 03:20 x
Mevさま、カーニバル休み最後なので遊びまくった週末です。

そろそろ憂鬱な花粉症シーズンですね。お互い気をつけましょう。
でも、芝アレルギーというのは1年中でしょう?同情いたします。。。
Commented by bonnjour at 2009-03-04 09:22
タメ息の出そうな美しい着物ですね。
派手なの大好き。

ベルギー・チョコの例えが面白いです。
Commented by アルチーナ at 2009-03-04 17:03 x
記事を読んで・・・やはり実演はチャンスがあったら行ける時に行かないとな、と思いました。やはり、奏者も色々奏法が変わったり、歌手も声が変わったりしますものね・・
Commented by レイネ at 2009-03-04 17:50 x
bonnjourさま、意外にも派手好みなんですね!この着物は10代の時に作ってもらったものなんです。。。。外国でなきゃ着られませんから、着物も喜んでくれてるかと。

ベルギー・チョコだーい好き。で、レーピンに対する今回の評価が厳しいのは、弟みたいな気がするもんですから、身内から見るとどうしてもあらが目立つわけで。でも、好きなのに変わりはありません。
Commented by レイネ at 2009-03-04 17:54 x
アルチーナさま、最近および過去のコンサートと比較すると、今回のは評価を厳しくせざるをえませんが、現在活躍するヴァイオリニストの中ではトップクラスであることは間違いないし、音楽上の解釈が私のものとずれていたということですね。
こういう風に比べたりできるのも得がたい経験ですし、やっぱり旬のものは旬の時に味あわないとね。
Commented by Mevrouw at 2009-03-20 07:27 x
レイネさま、いまさらのコメントですみません。
テレビhet gesprekで、レーピンのインタビューをやっていたのが過去放送分として見られます。
コンセルトヘボウのサイトで紹介されていますのでのぞいてみてください。(サイトを貼り付けようと思ったのですが、スパムとされてしまうのでできませんでした)

このなかで、レーピンもクイーンが大好きだと言って、キラークイーンがちょっとだけ流されました。
もしご存じでしたら、すみません。
Commented by レイネ at 2009-03-20 09:12 x
Mevrouwさま、レーピン様のTVインタビューのことお知らせくださり、ありがとうございます!全然知りませんでした。盛りだくさんの内容で貴重なものですね。すごく長いインタビューだけど、わかりやすい英語なのでレーピン・ファンの皆様にぜひお勧めします!www.concertgebouw.nl のホムペにあるhet gesprekからレーピン様をクリック。明日は、ヨハネット・ゾーマーのも見てみようっと。
レーピン様はわたしより約10歳年下なんだけど、インタビューでもステージ上でも、大人の風格だわ。

ロジャーが歌う「アイム・イン・ラブ・ウィズ・マイ・カー」が流れたときはきょとんとした顔だったけど、オランダのスポーツカー、スパイカーに乗ってる写真は彼のオフィシャル・サイトにもあります。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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