カリスト@モネ       謝肉祭の浮かれ騒ぎ

カーニヴァルの真っ最中である。カーニヴァルというのは阿波踊りみたいなもので「踊る阿呆に観る阿呆、同じアホなら踊らにゃソンソン」のノリで、自身も仮装して参加しないと面白くもなんともない。大学祭みたいな仮装パレードにもビールにも全く興味がないので、街中の馬鹿騒ぎから逃げ出すようして、ブリュッセルのモネ劇場に行ってきた。
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カヴァッリのオペラ「カリスト」の再演である。DVDにもなっているルネ・ヤーコブス指揮、ヘルベルト・ヴェルニケ演出のものだ。
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muzikale leiding |  René Jacobs
regie, decors en kostuums |  Herbert Wernicke
herinstudering regie |  Dagmar Pischel
belichting |  Robert Brasseur

Calisto
Eternità |  Sophie Karthäuser
Giove |  Johannes Weisser
Mercurio |  Georg Nigl
Endimione |  Lawrence Zazzo
Diana
Destino |  Caitlin Hulcup
Linfea |  Thomas Walker
Satirino |  Max Emanuel Cencic
Furie |  Angélique Noldus
                    Pane |  Magnus Staveland
2009年2月22日 De munt        Natura |  Magnus Staveland
Francesco Cavalli La Calisto         Silvano |  Konstantin Wolff
演奏 Concerto Vocale         Giunone |  Inga Kalna        

映像を見てもらうと分かるように、登場人物はヴェネツィアのカーニヴァルのような仮面と服装で、ローマ神話を道楽者の貴族とその召使の世界に移し変えている。その服装と仮面は、イタリアの仮面即興劇コメディア・デラルテの伝統を踏襲し、暗示的・象徴的である。例えばジュピターは、貴族の道楽旦那がカピターノの扮装をし、羊飼いエンディミオーネは、メランコリックで夢見がちなピエロの服装と仮面で、その他プルチネッラ、アルレッキーノ、スカラムーシュなど典型的なコメディア・デラルテの伝統的人物に扮装して、謝肉祭の馬鹿騒ぎを演じている、2重の仮面劇なのである。カリストはさしずめ、コロンビーナという役どころか。



バロック・オペラをコメディア・デラルテの世界にしてしまうという手法は、結果として驚くほどの洗練を生み出すことになる。豪華な衣装と仮面によって原作の下品さ卑猥さが薄められるだけでなく、登場人物がどんなに下卑た動作を行っても、単に河原者による道化なんだからと、観客は鷹揚に見ることができるからだ。宮廷で王に仕える道化は人間として認められていなかったゆえに、何をしてもどんなことを言っても許されたのと同様の効果である。

舞台デコールは星座になっている神話の登場人物を描いたパネルが4面に箱のようになっているが、平面なのにいろいろな仕掛けが隠されている。特にナポレオン時代からの古い劇場のよさ(舞台の高さが五階分あり奈落も深い)を生かし、神々は天井(天上)から降臨するし、下下の召使たちは床下から自在に登場する。奥行きは平板にして上下の動きで変化をつけるという構築形態がいい。
また、宙乗りなど、いかにもバロックらしいケレンミがある仕掛けも、楽しい。

歌手では、カウンター・テナーのローレンス・ザゾが目当てであった。気品のある声で他の歌手とは一線を画していた。歌わなくても座っているだけだったりして最初から最後まで出ずっぱりである。全てはこの羊飼いが見た夢の世界、という解釈もできる。
カリスト役は声にもルックスにも魅力に乏しかった。ほかのキャラクターが強烈過ぎるためだ。
ジュノー役のソプラノ歌手は声量豊かで、神々しいまでに迫力満点の歌声だった。

古楽アンサンブルによる演奏も、チェンバロ2台、オルガン1台、ハープ1台、リュート2つ、コントラバス2つに、その他の弦楽器と管楽器という厚みのある構成で、レチタティーボの伴奏にしても軽くなりすぎない。
器楽演奏だけの部分が少ないため、音楽を聴いた、と言う印象はあまり残らないが、トータル芸術としてのオペラの真髄が表れた、満腹感のあるオペラだった。
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by didoregina | 2009-02-24 11:21 | オペラ実演 | Comments(8)
Commented by sarahoctavian at 2009-02-24 20:50 x
(いい意味で)謝肉祭の時期にふさわしい演出・・・素敵!こんな舞台を提供してくれるなんて粋な配慮ですね。ミュンヘンのカリストはポップな仕上がりで、まぁあれはあれでカーニバル的と言えるのかな。
とにかくカーニバルは自分も変装してみんなで大騒ぎしなきゃ楽しくないんだと、私も思います。だからテレビの中継なんてもっての他。それもこれも今日でお終い、あ~あ清々した。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2009-02-25 05:11 x
ロイヤルオペラハウスのカリストはたしかミュンヘンと同じプロダクションだったと思うのですが、ローレンス・ザゾが特に素晴らしいと私も思いましたよ。私はカウンターテナー大好きなのですが、やっぱり気持ち悪いと思う人が多いようで、でもそういう人たちも彼のことは凄く誉めてました。
Commented by アルチーナ at 2009-02-25 09:30 x
わあ!素敵な演出ですね!
最近のモダンなのも好きですがこういうのも素敵ですよね!
ああっ!!日本では絶対に見られないだろうなーーという感じです。
Commented by レイネ at 2009-02-25 17:23 x
sarahoctavianさま、この演出・デコール・衣装、トータルで一人の演出家がやったのですが、とっても気に入りました。やっぱり、こういう夢見るようなファンタジーあふれるのが好きなんです。
私が名づけるところの「独逸派」、現代に読み替えて即物的・悪乗りしすぎの演出は、どうも気持ちに合わないのが多くて。
コンビチュニーがエッセンのアールト歌劇場プロで演出したR.シュトラウスの「ダフネ」、アムステルダムにも持ってきたんですが、オランダ人には受けが悪かった。(オランダ人の神経を逆撫でするような)ナチスの映像が出たということを差し引いても、全体的に、あまり必然性の感じられない解釈とシーンが多くて、ほとんど感心も感動もしませんでした。だから、来シーズンの彼演出の「サロメ」はどうなのか興味津々なのです。
Commented by レイネ at 2009-02-25 17:30 x
ロンドンの椿姫さま、このオペラ、音楽的にはたいしたことなくても料理のしがいのある素材なんでしょうね、トータル・アートとしてみた場合。
ザゾのこと、姫のブログで読んで興味を持ったら、モネでも同じ役だったのでした。彼の声はカウンター・テナーの中では男性的なので、普段は引けちゃう人でも受け入れやすいのかも。声や歌い方が好きになるかどうかの境界線は微妙で、紙一重なんですが、この人の場合は好感をもたれる要素が多いんですね。
Commented by レイネ at 2009-02-25 17:38 x
アルチーナさま、こういう演出のほうが、時代情勢の変化に伴って古びたりしないから、何度も使えて経済的ですよね。でも、宙乗りが多くて、建物5階分を上下させる装置は安全性を確保するのが大変だったと思います。ともあれ、どたばたの喜劇を、下品になる一線を越えないで料理したことに賛辞を贈りたいわ。
Commented by Mev at 2009-02-25 19:10 x
うらやまし~。ものすごく面白そうな舞台ですね。生ではきっと見られないから、DVD買っちゃおうかなー。宙乗りがあれば、子供も楽しんでくれそうだし。(私、日本で猿之助見てきゃーきゃー言ってたんです)こういうミーハーな私をお許しください。

カーニバル、私は観光客になりきって結構見物を楽しんできちゃったんです。次回は仮装して? いえいえ、1度見れば十分ですね。この時期、立ってみてるのは寒くて寒くて。
Commented by レイネ at 2009-02-25 19:40 x
Mevさま、あからさまな性描写が多いから、あまりお子様向けではありませんよ。
猿之助のケレンミ、いいですよね。この舞台演出の変幻自在さ、登場人物の神出鬼没さは、彼の舞台に通じるものを感じました。

だから、カーニヴァルにはアルコール燃料が必要なんですよ、一番寒い時期だから。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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別名: didoregina
性別:女性
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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