フォルテピアノとモダンピアノのリサイタル

c0188818_591931.jpgロナルド・ブラウティガムのリサイタルに行ってきた。

彼はオランダ人ピアニストとしては間違いなくトップの一人だ。ベートーベン・ソナタのCDを持っているし、リサイタルもオケとのコンサートも何回か聴いているが、どうも小粒と言うか、見かけに比べて演奏の迫力に欠けるきらいがあって、もういいやと、今回のリサイタルはパスするつもりだった。

しかし、劇場サイトでプログラムを見て仰天し、気が変わった。
1回のリサイタルでフォルテ・ピアノとモダン・ピアノの両方を使用するというのだ。

photo by Marco Borggrave

前半がハイドンで後半はメンデルスゾーンである。ピアノを弾くわたしはどちらも敬して遠ざけている作曲家だが、フォルテ・ピアノで弾かれるハイドンのソナタには惹かれる。
同好の士、バービーさんも興味を持ってくれ、同行してくれることになった。

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今回使用のフォルテ・ピアノは、1800年頃Michael Rosenbergerが製作したもの。Edwin Beunkのコレクションを借りたという。
舞台上、スタインウェイの手前にセットされると、その小ささがよく分かる。ペダルはない。
photo by Marco Borggrave

ブリリアントから出ている、フォルテ・ピアノによるハイドンのピアノ・ソナタ全集を持っているので、耳の練習用に1週間聴いた。耳を慣れさせるためである。
耳の慣れより、指の慣れにはもっと時間がかかる。フォルテ・ピアノを弾くテクニックとモダン・ピアノを弾くテクニックは全く異なるため、両刀使いのピアニストはいても、1度のコンサートにその両方を用いるということはめったにない。それはそうだ、タッチが違いすぎるから、移行にある程度の時間が必要なのだ。

演奏されたハイドンのピアノ・ソナタは、最後期の3つで通称ロンドン・ソナタ。ハイドンは、最後の4つのソナタにだけ、フォルテ・ピアノで弾くことを指定している。(それ以外はチェンバロもしくはフォルテ・ピアノのため、となっている)

「ハイドンの時代に、もしもスタインウェイがあったなら、作曲された曲は、今残るものとは全く異なったものになったはずだ。ハイドンは、フォルテ・ピアノの特徴を最大限に引き出すような曲を作った。だから、今回は特に、ハイドンの時代に製作されたフォルテ・ピアノを借りてきた」とブラウティガムは、演奏の前に説明した。

フォルテ・ピアノの響きは、ピアノの前身だけあって、特に高音部はちょっとチェンバロを思わせる。
フォルテ・ピアノで弾かれるハイドンは典雅で可愛らしいが、荘重な雰囲気にはならない。だから逆に、わたしはハイドンのソナタをモダン・ピアノで弾くのが苦手だ。異常に重苦しくなってしまうから。フォルテ・ピアノは弾いたことがない。

ヘーレン劇場のこじんまりさと音響が今回のフォルテ・ピアノにはよく合っている。
大きすぎる会場では困るし、一度小さなお城のホールで聴いたときには、オリジナルのフォルテ・ピアノ自体の音のせいなのか、低すぎる天井のためか、なんだか響きすぎるチェンバロ演奏を聴いているような気分になった。

休憩後は、フォルテ・ピアノは片付けられ、スタインウェイで、メンデルスゾーンの「無言歌集」より12曲の抜粋の演奏。
これも、弾くのが苦手な曲集である。手持ちのCDを聴いても好きな曲が見つからない。
しかし、ブラウティガムの演奏はよかった。特に後半の5曲は、ベートーベンみたいに勇壮である。この人、ベートーベンよりメンデルスゾーンの方が向いているんではないだろうか。以前に彼のリサイタルで聴いたベートーベンは、スタインウェイなのに、まるでフォルテ・ピアノのように頼りない音しかしないので、休憩中舞台に上がって自分で音を出して確かめたくなったほどだ。

今回は全曲、自分で譜めくりしながらの演奏であったが、手馴れたもので視覚的にもじゃまではなかった。

リサイタル後、ホールのカフェに入ると、ブラウティガムが座っていた。
写真を撮らせていただき、フォルテ・ピアノの行方を尋ねると、「借りものなので前半修了後、すぐに送り返した。」とのこと。
以前、ラジオのインタビューで「フォルテ・ピアノの演奏会を続けた後は、何日かモダン・ピアノに慣れる練習をしてから演奏会を行う。すぐには切り替えができないから」と言っていたので
その辺を確かめると、「そう、1度に両方のピアノで演奏するのはこれが2回目。1回目は4年前の東京。全くしないわけではないがレアだ。」と言う。
レアなリサイタルに遭遇し、ラッキーだった、楽しめた、と言って別れた。
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by didoregina | 2009-02-15 22:23 | コンサート | Comments(3)
Commented by Mev at 2009-02-16 16:45 x
さすがレイネさま。玄人筋です。ただただ憧れます~。
フォルテピアノは生で聞いたことがありませんので、ぜひ一度聞きにいってみたい、と思っています。
Commented by レイネ at 2009-02-16 23:12 x
Mevさま、玄人というのは着物の趣味のこと?渋い演目好みってこと?このところアーチストとカフェで遭遇したり、演奏後お話をしたりする機会が何度かあったので、これからは、インタビューも目標にしようかしら。
フォルテ・ピアノのリサイタルはあんまりないでしょうね。見つけたらぜひ。
BBCテレビ・シリーズ「自負と偏見」のテーマ曲、メルヴィン・タンによるフォルテ・ピアノの演奏が好きでした。
Commented at 2009-02-17 06:56 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。


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