ヴィヴァルディ『ウティカのカトーネ』@ケルン

『ウティカのカトーネ』といえば、昨年夏ヴェルサイユ他の劇場でのCTが多数出演し、
男声のみで上演されたヴィンチ作曲版が話題になった。
半年後の今年2月にはヴィヴァルディ作曲版がコンセルトヘボウでもコンサート形式で
演奏され、こちらは女声がメインであった。
どちらも、残念ながらよんどころない用事と重なり見逃したのだった。(ラジオでは
聴いた。)
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ケルンでもヴィヴァルディ版コンサートがあることを知ったのは、8月である。
9月初めの遠征がやたらと続いた時期であるが、前日になって行くことに決め、行くのを
諦めざるをえなくなった友人からまたもや最前列中央の席を譲ってもらえた。
直前に決めたのは、金曜日と日曜日にあるケルン公演のチケット売れ行きが見るも
無残な有様で、これはバロック・オペラ・ファンとしては行かないと女が廃る!と発奮
したからだ。客席に穴をあけてはいけない、アーチストを応援しなければ、と。

Catone in Utica  2016年9月9日@Oper Köln Im Staatenhaus

MUSIKALISCHE LEITUNG: GIANLUCA CAPUANO

CESARE: KANGMIN JUSTIN KIM
CATONE: RICHARD CROFT
EMILIA: VIVICA GENAUX
ARBACE: CLAUDIA ROHRBACH
FULVIO: MARGARITA GRITSKOVA
MARZIA: ADRIANA BASTIDAS GAMBOA

ORCHESTER: CONCERTO KÖLN

目あては、ジュノー、キム、そしてコンチェルト・ケルンという順番だった。

ケルン歌劇場は、数年かかっている改修工事完了の見通しがまだ立たないままで、
今回の会場は、ライン川を挟んで大聖堂の反対側、見本市会場の近く(見本市会場の
一部かもしれない)Staatenhausという建物だった。駅裏のテントよりはまだ少しまし
と言う程度のいかにも仮設という感じで、ここはとにかく前々日の冷房の効きすぎた
ケルン・フィルハーモニーとは正反対で、冷房設備などないから暑いことこの上ない。
(その日も30度近くあったのだ。)

ステージらしきステージはなくて、雛壇上に幅の広い客席が造られているだけである。

コンチェルト・ケルンの演奏はいつも手堅くどのパートも万遍なく上手い。そして弦に
エッジが利いてきびきびして、いかにもヴィヴァルディらしい情熱がほとばしる感じが
好みである。だれるということがない。所謂濃い演奏なのだが、びしりとしまりがある。

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歌手では期待通りのジュノーが、とにかく機関銃のようなアジリタをビシバシと決めて、
小気味よいことこの上ない。彼女の少しだけ暗めの個性的な声がヴィヴァルディ独特の
ケレンミにぴったり合う。彼女の声と歌唱ほど、録音と生では印象が異なるのも珍しい。
余裕で自慢の喉を披露するという按配で、コンサート形式のバロックオペラ実演の醍醐
味と楽しさが溢れるのであった。

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もう一人のカンミン・ジャスティン・キム君には、期待以上の何かを持って臨んだ。
すなわち、キムチリアというあだ名の通り、バルトリの物まねで有名な彼だから
ちょっとキワモノ的なイメージがどうしてもあるから、偏見なしで聴くことが難しい。
ところが、最前列正面に座った私に自信たっぷりな視線を合わせて、反応を楽しみな
がら歌う彼には最初から度肝を抜かれた。
高音が無理なく美しく発声できるのはもちろん、低音にもなかなか魅力があり、声区の
移動も跳躍もスムーズである。派手なテクニックの披露も楽々とこなし、彼の歌唱を
例えるなら、男子新体操の筋肉質でかつ美しい動きを見るような快感があった。
キワモノ的イメージを自ら作り上げて名前を売る作戦も悪くない。実演を聴いて、その
実力に気持ちよくノックアウトされるという楽しみを作ってくれた彼に感謝している。

その他の歌手も皆実力あるソリストで、このヴィヴァルディ公演は大成功。堪能できた。
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# by didoregina | 2016-09-25 21:15 | カウンターテナー | Trackback | Comments(0)

『インドの女王』クレンツィス指揮ムジカエテルナ@ケルン

実は怒涛のロンドン遠征前日に、ルール・トリエンナーレのDie Fremdenを鑑賞して
いる。昨年からトリエンナーレの芸術監督になっているヨハン・シモンズの脚本・演出
作品である。マールという町の元炭鉱の石炭加工工場が会場で、なかなか面白い体験が
できたのだが、その感想は滞っているCT関連記事全てを書き終わってからにしたい。
ロンドン2日間遠征(ロッシーニの『セラミラーデ』とイエスティン君コンサート)の
翌日、ケルンのフィルハーモニーに『インドの女王』を聴きに行った。

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2016年9月7日@Kölner Philharmonie

Johanna Winkel Sopran (Doña Isabel)
Paula Murrihy Sopran (Teculihuatzin)
Ray Chenez Countertenor (Hunahpú)
Jarrett Ott Tenor (Don Pedro de Alvarado)
Thomas Cooley Tenor (Don Pedrarias Dávila)
Christophe Dumaux Countertenor (Ixbalanqué)
Willard White Bariton (Sacerdote Maya)
Maritxell Carrero Schauspielerin
MusicAeterna Choir
MusicAeterna Orchestra
Teodor Currentzis Dirigent

Henry Purcell
The Indian Queen Z 630 (1695)
Semi-Opera in einem Prolog und fünf Akten. Akt 5 (Masque) von Daniel Purcell.
Libretto von John Dryden und Robert Howard
In einer neuen Fassung von Peter Sellars mit vertonten Texten von John Dryden,
Katherine Philips, George Herbert u.a. und Sprechtexten von Rosario Aguilar

パーセルのセミオペラにオリジナルの台詞を加えてピーター・セラーズが翻案・演出した
舞台は、マドリッドで数年前に初演された時ストリーミングを鑑賞した。
インドとは新大陸アメリカのことであり、スペインによって征服された「インド」の女王
の一代記が台詞で語られる。スペイン訛りの英語の語りが最初から最後までメインで
それに音楽が付随しているという感じで、セミオペラの伝統に倣ってか歌はもうほとんど
添物程度であるのと、台詞・オーケストラによる音楽・歌・踊りのような演技のそれぞれが
有機的に結合しているとは言いがたく、パーセル・ファンとしてはストリーミングを見て
かなり不満が残った。

それをまた、なんでケルンまで聴きに行ったのはなぜかというと、クリストフ・デュモーが
出演することと、フィルハーモニーが会場だからあの妙な演技や踊りはないだろうから、
クレさん指揮のムジカエテルナによる音楽が楽しめるだろうという理由である。

しかし、やはり、あのセリフはうざかった。マイクロフォンを通してずっと生で語られる
ため、音楽の流れがぶちぶちとちぎれてしまい、台詞の存在価値が全く見受けられない。
ムジカエテルナにしか出せない、あの極上ピアニッシモにため息をつき、古楽オケにして
は人数編成がやたらと多いのに、クレさん指揮でびしっと統制が取れて、強弱の幅が極端に
広い独特の音楽世界にもっともっと浸りたかった。
オーケストラによる音楽は甘美で、典雅で、クレさんとムジカエテルナの白眉と言える。

クレさんの好みであろう配置でソロ歌手は主にオケの後ろに立って歌う。時たま前面に出て
歌うこともあったが、数えるほどである。
そして、デュモー選手のソロ部分がとにかく少なすぎたのにがっかり。CTパートはもう一人
のCTレイ君が歌う部分が多く、それがまた難がありすぎて隔靴掻痒。

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この晩のハイライトは、デュモー選手の歌ったMusic for a whileである。
最前列中央に座った私の目の前で、選手が奇妙な踊りをしながら、しかし力強く芯がしっか
りした発声と、びしっと締まってよく通る声で歌われると、歓喜の頂点に達する。
この歌にはもともと思い入れがあるのだが、彼の男性的な歌唱によるドロップ、ドロップ、
ドロップで涙がこぼれそうになるのだった。これが、そして選手の声で聴きたかったのだ。

その日は9月だというのに猛暑で30度近くなり、そのためか会場は冷房が効きすぎ、寒くて
寒くていたたまれなくなり、頭の中ではずっと、コールド・ソングが鳴り響いていた。
冷房装置でそういう効果を出すとは意外である。脳内だけでなく、デュモー選手が実際に
歌ってくれたらよかったのに、と不満が残った。

しかし、終演後の出待ちで選手に会え、知りたかったことを質問して、それに選手は全部
答えてくれるというメイン・イヴェントがあった。ケルンまで行った甲斐があるというもの
である。
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# by didoregina | 2016-09-23 23:13 | カウンターテナー | Trackback | Comments(6)

 プロムス・コンサートでイエスティン君のレパートリー拡大

9月5日のカドガン・ホールでのプロムス・コンサートにイエスティン・デイヴィスが
出演すると知ったのは、3月頃だったと思う。プロムスに参戦したことはないのでチケッ
トの取り方等を、事情に詳しい方から教えていただいていたのだが、一般チケット売り
出し当日に参戦し忘れるという失策を演じた。そして、ほぼ発売開始と同時に売り切れ
となった。
当日券が必ず出るから並べばいい、それとも当日が近づけばリターンが出てくるに違い
ないと思いおっとり構えていた。
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ところが有難いことに1か月前にザルツブルクで会ったイエスティン君から、家族用の
招待券を一枚貰えることになった。奥様(その時はまだ婚約者)はお仕事のためコンサ
ートには行けないから余ってる、という理由で。もう一枚はお父様の分で、だから彼の
お父様の隣の席で聴くという光栄を担うことになったのだった。

しかし、当日チケットの受け取りに少々行き違いが生じ、ハラハラさせられた。
イエスティン君の名前でお取り置き、ということだったのが、多分エージェントが気を
利かせてお父様の名前でチケット2枚入りの封筒を取り置いていたため、うろ覚えのお父
様のお顔を開演前でごった返すホールで探すことに。お父様は封筒を開けて、あ、2枚
入ってるとさぞびっくりされたことだろう。双方で会場をウロウロすることになった。
しかし、やはり日本人を見つける方が楽なようで、向こうから探しに来てくださり、
目出度く座席に着くことができた。

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このコンサートは、BBCプロムスのランチコンサートの一環で、ラジオ放送された。
オンデマンドでまだ聴くことが可能なので、ぜひ。
http://www.bbc.co.uk/programmes/b07sxdfp

Purcell (arr. Britten): Sound the trumpet; Lost is my quiet; Music for a while;
If music be the food of love; No, resistance is but vain; Celemene, pray tell me
Mendelssohn: Ich wollt' meine Lieb' ergösse sich; Scheidend; Neue Liebe; Sonntagsmorgen; Das Ährenfeld; Lied aus 'Ruy Blas'
Quilter: It was a lover and his lass; Music, when soft voices die; Drink to me
only with thine eyes; Love's philosophy; Love calls through the summer night

Carolyn Sampson (soprano)
Iestyn Davies (countertenor)
Joseph Middleton (piano)

2016年9月5日@Cadogan Hall

当初、作曲家以外の情報がなかったので、どういう曲目構成のコンサートになるのか当日
まで分からなかった。
ブリテンのアレンジしたパーセルの曲は、イエスティン君のリサイタルでは定番であるか
ら、Music for a whileなどは何度も生で聴いている。しかし、今回は、カロリン・サンプ
ソンとの共演なので、曲目は彼女とのデュエットやそれぞれのソロになっている。
最初の2曲はデュエットで、その後交互にソロを歌い、またデュエットそして掛け合いと
いう構成だった。
歌唱スタイルが似ている二人の歌うパーセルの曲のデュエットは悪くない。しかし、毎曲
ごとに聴衆から拍手が出て、コンサートの流れが滞るのが少々難であった。

Music for a whileは、拙ブログの名前にしているほど好きな曲である。しかし、モダン・
ピアノ伴奏のブリテンによるアレンジはそれほど好きではない、というのが本音である。
しかるに、今回のジョゼフ・ミドルトンによるピアノ伴奏は、今までの誰の伴奏よりも
色彩感とリズム感が卓越していて、情熱と洒脱さに溢れ、いつも聴きなれた曲があっと
驚くほど新鮮に響くのだった。ブリテンのアレンジで内に籠った暗さのはけ口が見えない
ようなイメージが今までは付き纏ったのが、曇りがなく軽快で若々しく明るい曲になって
いて、特に「ドロップ、ドロップ、ドロップ」のピアノと歌唱の掛け合い部分では、まさに
目から鱗がぽろぽろと落ちていくような気分になった。
このピアニストの音には天性の澄んだ明るさがあり、歌手へ寄り添う部分と自分の音楽性
を自由奔放に発揮するバランス感覚にも優れ、こういう伴奏者はなかなか得難い。

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メンデルスゾーンの歌曲をイエスティン君が歌うのを聴くのは初めてである。
バッハやシューマンなどで彼のドイツ語のディクションがなかなかいいことは知っていた。
しかし、カウンターテナーがドイツ語のリートを歌うというコンサートはなかなか珍しい。
そこはかとない憂いをしみじみと聴かせるという点で、メンデルスゾーンの歌曲もパーセル
やダウランドとも比肩しうるということを知ったのはこのコンサートのおかげである。
デュエットも、サンプソンとイエスティン君の声がきれいに溶け合い、新境地の発見だ。
さすがに元合唱団出身だけあって、アンサンブルでの声を合わせることの加減をよくよく
耳で熟知している彼の面目躍如とも言えよう。

また、ロジャー・クィルターという作曲家の名前も曲も聴くのも今回が初めてだった。
今回の5曲は、シェイクスピア、シェリー、ベン・ジョンソン、ベネットの詩に1905年
から1940年の間に曲を付けたもの。エリザベス朝時代のメランコリーとは少々異なるが
やはりどことなく陰影の濃さが感じられるのは、2つの大戦の影に脅かされた時代のせい
だろうか。ノスタルジックな曲調と、真摯な歌唱スタイルが上手く融合して胸に迫る。

1時間のランチ・コンサートでありながら、ソロとデュエットを交え、英語とドイツ語の
しかもレアな曲を集めて、中身の濃さは他になかなかないほどの充実度であった。
こうして、イエスティン君のレパートリーとCTの声の可能性が広がったと実感できたの
だった。
このコンサートで歌った曲を今週レコーディングしているようで、新譜発売が楽しみだ。
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# by didoregina | 2016-09-20 19:30 | イエスティン・デイヴィス | Trackback | Comments(0)

ユトレヒト古楽祭での目玉CTと初登場CT

毎年8月下旬から9月初旬にかけての10日間に渡ってユトレヒト市中の教会やコンサート・
ホールで繰り広げられる古楽祭の2016年のテーマはズバリ、ヴェネツィアだった。
(余談だが数年前のローマに続き、3年後のテーマはナポリであるから、今から期待大!)

連日朝から真夜中過ぎまで行われる、全部で100以上のコンサートの中から今年私が選んだ
のは、フィリップ・ジャルスキーのコンサート、ステファン・テミングのリコーダー・コン
サート、そしてラルペジャータのカヴァッリ・コンサートだ。

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ジャルスキーは、今年前半、ご家族に不幸があったり喉の故障が比較的長引き、各地での
コンサートがキャンセルもしくは延期になった。今回のユトレヒトでのコンサートは、
復帰後2度目に当たるはずだ。
プログラムは、チェスティ、カヴァッリ、ロッシ、モンテヴェルディ、ステッファーニ等の
ヴェネツィアのオペラ黎明期に活躍した作曲家による曲が並び、なんとも今年の古楽祭テー
マにバッチリ合う選曲となっている。
(曲目およびラジオ録音は以下のリンクから見・聴くことができる)
http://www.radio4.nl/zomeravondconcert/uitzending/409670/zomeravondconcert

久しぶりに聴くPJの声は、いつも通り、会場を満たすほどの声量で、歌唱にぶれがなく安定
している。彼の歌唱は丁寧な発音と発声、正確な音程という基本中の基本がしっかりしてい
てるので、安心して聴くことができるのだ。
そして今回特に圧倒されたのは、表現力が増していること。昨シーズンは新作やヘンデルの
オペラ出演の機会が多かった彼だから、その経験から幅広い表現力を身に付けたのだろう。
ルネッサンスからバロックへの過渡期的なアルカイックな曲調や、イタリア古謡的な泥臭さ
が混じるこれらの曲を、ストレートに歌いながらどこかフランス的洗練を加えて、しかも
しみじみと味わい深く歌い、本当に上手いなあ、と唸らされた。
彼の声にこれらのイタリアの曲が意外なほど合い、芳醇そのもののコンサートだった。
CTとしての人気は多分オランダでは彼が一番だし、彼の声が現代CTの理想像として指標化
されていると思え、それにふさわしい実力を備えていることはその晩のコンサートで誰の耳
にも明らかであった。

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左から、オルリンスキ君、ヌリアちゃん、カペツート、ブリデリ嬢。

さて、今年のユトレヒト古楽祭のもう一つの目玉はラルペジャータのコンサートである。
彼らの人気は凄まじく、例年チケットを取るのが難しいため諦めるのだが、今年は友の会
会員である友人に頼んでなんとか平土間正面後方の席をゲットした。

L’Arpeggiata o.l.v. Christina Pluhar @ TivoliVredenburg, Utrecht 2016年8月30日
Nuria Rial [sopraan]
Giuseppina Bridelli [mezzosopraan]
Vincenzo Capezzuto [contratenor]
Jakub Józef Orliński [contratenor]

カヴァッリの歌(異なるオペラのアリア)の数々を組み合わせて、ソプラノのヌリア・リ
アルを中心にメゾとCT2人がそれぞれソロやデュエットで歌うという形式である。
(こちらも曲目および音源は以下のリンクから)
http://www.radio4.nl/zomeravondconcert/uitzending/435027/zomeravondconcert

私的目玉はヌリアちゃんの生の声を聴くという悲願達成だったのだが、それと同時に割と
直前に得た意外な情報にも興味津々でコンサートに臨んだ。CTのオルリンスキ君が出演
するというのだ。

隔年9月にオランダのスヘルトヘン・ボス(デン・ボス)で国際声楽コンクールが開催され
る。今年がその年に当たり、春に本選出場歌手の名前と声種が発表された。その中にCTが
入っていたので注目していた。ポーランド人の若手CTでヤコブ・ヨゼフ・オルリフスキと
いう名前である。早速ググると、彼はディドナートのマスタークラスでの歌唱で伸びやか
で素直な声を聴かせているのが耳を惹いた。(そして、また彼はブレイクダンスのグループ
の一員としても活躍していることを知った。)
コンクール応援に行く気満々だったのだが、なんと夏前に始まったコンクール会場の改修
工事でホールにアスベストが見つかり、コンクール開催が不可となり来年に延びてしまっ
た。
残念に思っていた矢先であったが、オルリフスキ君は、ラルッペジャータの公演ソリストの
一人としてユトレヒトに来るということを知ったのだ。

私的注目度はより高まった。
生で聴くオルリフスキ君は、温かみのある素直なきれいな声の持ち主で、発声に無理が
感じられないのが耳に心地よい。オランダ・デビューとなった彼のパートは少なかったが、
将来有望と太鼓判を押すにふさわしいと感じられた。現在、彼はNYのジュリアード音楽院
で学ぶ学生である。来年の声楽コンクールでの再会が楽しみだ。
(アンコールで、彼は得意のブレークダンスを披露し会場を沸かせた。ラルペジャータの
コンサートではなんでもありだが、これは誰も予想外だったと思う。この日の聴衆の中で、
もしかして彼がブレークダンス踊るんじゃないかと密かに期待していたのは、多分私一人
ではなかったろうか。)

このコンサートの模様は全て録画されているので、ご覧になっていただきたい。
https://youtu.be/lI_OloqQ6CQ

そして、私がもうひとつ密かに心待ちにしているのは、当たり役のトロメオの封印宣言を
したデュモーの後釜として、あのマクヴィカー演出の『ジュリオ・チェーザレ』のトロメオ
役をオルリンスキ君に演じ歌ってもらうことである。あのプロでは、トロメオ役歌手の
運動神経・身体能力が抜群でないとこなせないからである。
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# by didoregina | 2016-09-19 18:20 | カウンターテナー | Trackback | Comments(2)

The Castrato is dead, long live the Countertenor

本日9月16日は、18世紀の伝説のカストラート、ファリネッリの命日である。
そして、なぜか、カウンターテナーには乙女座(8月、9月)生まれが多い。
そして、はたまた、今年8月9月にはカウンターテナー出演のコンサートやオペラの
実演に接する機会が多く、数えてみると、延べ6演目延べ7人のカウンターテナーの
生の歌声を聴くことができた。
その僥倖を噛みしめ、往時のカストラートを偲びながらそれらを振り返ってみたい。

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9月16日は、イエスティン・デイヴィスの誕生日でもある。昨年のこの日、その事実を
知って驚愕。その時、イエスティン君はニューヨークのブロードウェイで出演する芝居
Farinelli and the Kingのリハーサル最中だったと思う。なんという偶然。
The Castrato is dead, long live the Countertenorと叫びたくなる気持ちもわかって
いただけよう。

そのイエスティン君が出演の新作オペラThe Extereminating Angel (皆殺しの天使)
を鑑賞するためにザルツブルクまで遠征し、初めてザルツブルク音楽祭というものを
体験した。モーツアルト劇場での8月8日千秋楽である。
作曲家トマス・アデスは遅筆で有名で、このオペラも果たして今年本当に上演されるの
だろうか、間に合うのだろうかと割と最後まで気を揉ませた。合宿のような長いリハー
サル期間と3回の実演を経ていよいよ楽日。
ルイス・ブニュエルの映画を翻案オペラ化したものなので、文字通り息詰まるような
室内劇のような具合である。
主要登場人物(歌手)がとても多く、それぞれに特異なキャラクターが設定されていて
特に主役と言える歌手はいない。そのため、各歌手に同じくらいの量の聴かせ所を設け
ている。皆が皆、極限のパニック状態に陥るその様を、ヒステリックな高音や不協和音
で表現しているのだが、イエスティン君の役柄は強迫観念に囚われて精神的にどこか
障害があり、かつ姉との近親相姦を暗示するような設定なので、キャラクターとしては
面白い。スプーンにこだわる彼のアリアには、バッハのマニフィカトからの引用が明白
とは本人の弁である。

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かように、現代作品ながらバロックから古典派ロマン派と連綿と繋がる様々な音楽要素
が盛り込まれ、音楽自体は耳に心地よくさらさらと流れて行く。
独白と対話、そして重唱・合唱部分もあり、60年代ブルジョワの屋敷の密室中で起こる
芝居仕立ての総合オペラ・アンサンブルと言える作品になっている。
ザルツブルク音楽祭の後は、来年のロンドン、ニューヨーク、そしてコペンハーゲンでの
上演が予定されている。(コペンハーゲン以外はほとんどオリジナルキャストが出演。)

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イエスティン君を追っかけているうちに興味を覚えたのは、現代作曲家のオペラ作品に
カウンターテナーが主要な役で登場するものがコンスタントに作られているということで
ある。
それらは大概、登場人物が極端に少なく、1人から3人、多くても5人程度である。
現代ものを歌える(練習時間が取れる)歌手の数が限られているという理由もあるかも
しれない。
しかし、現代の作曲家に、その声のために曲を作りたいと思わせる実力ある若手カウン
ターテナーが現在揃っているという事実も重要だと思う。イメージを膨らませ、作品の
制作意欲を掻き立てるミューズのような存在としてのカウンターテナーという声種は、
現代の作曲家にとってインスピレーションの恵の泉のような存在なのかもしれない。
そういう意味で、バロック物以外にも活躍できるカウンターテナーの雄としてのイエス
ティン君に心から拍手を送りたい。
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# by didoregina | 2016-09-16 17:59 | カウンターテナー | Trackback | Comments(6)

Against all odds (I made it to London)

Travelling to London is not a special event any more since I've been attending
quite some concerts and operas for years. It takes only 2 hours by Eurostar from
Brussels to the heart of London, so I've got used to it and the travel looks like a
kind of regular commuting.
But that nonchalant carelessness led me to a series of unexpected accidents last
Sunday.

It was raining dogs and cats in the morning. So I wasn't feeling like walking
to the nearst train station in the Netherlands. I decided to go by car to the nearst
Belgian station which is virtually the same distance, as I live in a border town.
Besides, the parking next to Vise station in Belgium is large and free of charge.

That was my first wrong decision.

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I took the highway suitablly called Autoroute du soleil, but the exit to Vise was
closed due to road surface maintenance.
Alright, no problem, I thought, as I could keep driving to Liege station.
But the usual interchange to TGV station of Liege Guillemins was unexpectedly
closed, too.
I drove to the city centre and put the destination into my car navigation system:
Gare.
My car navigation requiered the name of street, but I had no idea of the exact
address of the station and Place de la Gare seemed a safe and trustworthy name.

That was my second mistake.

My car navigation led me to a wrong station!
Desparately I looked around at a foreign station place and found a seemingly
Belgian local couple walking on the street.
I asked to a young guy how to get to the Guillemins station, and he explained me
in English using his google map. (I tried to speak in French, as Liege is situated in
the Fench speaking area of Belgium.)
Perhaps I didn't seem quite convinced by his explanation, he kindly offered to
guide me to the station with his car!

That was my fiirst right choice of the day, as I picked up a right person!
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He was extremely kind and drove slowly enough to avoid losing each other.
But the Belgian traffic sytem didn't do me any favour: every single traffic light
was red. I followd my Belgian Guardian Angel's car patiently and suspensefully,
as I was sure he might take me to the main entrance of the station where it is
extremely hard to find a parking space.....
We arrived at a temporary parking area of maximum parking duration of 15 min.
I thanked him politely, and he wished me a pleasant journey, but I missed my
train to Brussels after having looked for long-term parking. As it was Sunday,
the next train to Brussels would depart over an hour, which meant I could hardly
catch my Eurostar.

So I decided to drive further to Brussels, which turned out obviously to be another
wrong decision.

I drove along the Belgian highway of Belgian road quality surface with an average
speed of 135 km/h. So I theorecically would make it to catch my Eurostar.

But of course, there was another obstacle.

Brussels-midi station is known for its closeness to rather an infamous
area where some terrorists and terrorism suspects have been living safely.
But I didn't know anything about its famous Sunday afternoon market around
the station. The traffic situation there was chaotic and it was impossible to get
closer to the station by car.
I asked the police officers in French, Dutch and English, where I possibly could
find a parking. Their answer in French (oddly enough same as English) was
IMPOSSIBLE until 16:00.
Then one of the police men instructed me in Dutch how to reach the underground
parking underneath the station, and he even knew the address of the parking!
I put that into into my car navigation and I managed to get there finally, but too
late.
My Eurostar left on time, unfortunately.

I went to the ticket info desk and said that I missed my train.
The guy at the desk said, "Just try to check in, if the machine accept your ticket,
you can go, otherwise you have to buy a new ticket".
I went to the check-in desk instead of a check-in machine, and just showed the
deskperson my ticket without saying a word.
The guy scanned my ticket and issued a new ticket of the next Eurostar, without
speaking a single word. He didn't ask me anything and any charge at all.
At last Fortuna smiled on me.

I arrived at London St. Pancras one hour later than I originally had planned,
exhausted from troubles but blessed with the last resort.
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# by didoregina | 2016-09-07 05:04 | 旅行 | Trackback | Comments(2)

ザルツブルク音楽祭の着物 

夏の音楽祭で纏った着物シリーズ、第二弾。
華やかに着飾った人達が集まる夏の音楽祭には何を着ていくか、これは重大テーマだ。
今年は、ザルツブルク音楽祭にデビューした。贔屓CT歌手のイエスティン・デイヴィスと
彼の檜舞台を鑑賞するために遠征した私のダブル・デビューである。

普段のオペラ鑑賞でも、特に贔屓のためのイギリス遠征では、着物選びには手間暇かける。
それが、夏の音楽祭ともなると別格である。イブニングドレス率がグンと高い場所では、
日本女性はやはり着物で勝負に臨むのがよろしい。イブニングドレスの華やかさに負けて
はならじ。
というわけで、選んだのはこの訪問着。

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毎回、遠征が近づくと、FBやツイッターに候補として選んだ着物と帯のコーディネート
写真を何枚かアップして、皆様のご意見を伺うというのが常である。
FB友には外国人が多い。彼らの意見・感想は、日本人が着物に対して持つ常識から離れ、
知識や偏見に囚われていないため、なかなかに面白い。
例えば、日本で着物で歌舞伎鑑賞に行く場合、季節や演目や贔屓に因んだ柄などを選ぶ。
それが外国でオペラ鑑賞の場合であると、そのオペラの初演(18世紀)にプリマ・ドンナ
歌手が着た衣装の色であるとか、遠征先の風景にマッチする色柄、会場の雰囲気などを
基準に彼らは選ぶのである。

今回は、3つの異なる着物とコーデの写真をSNS上にアップし、皆様のご教示を仰いだの
だが、意見百出で、私も悩んでしまった。

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まず、真夏であるから、薄手の夏物の白大島という線で行こうと思った。
抹茶色の帯は、ブログ友のVさんから昨年譲っていただいたもので、上品な唐草の織柄が
着物の模様とぴったり。某T村製で、丁度、宮尾登美子の『錦』を読み終わったばかりな
ので縁を感じた。
ところが、今年のザルツブルクはさほど暑くないようで、夜になると冷えそうだ。
遠征準備中、オランダは冷夏で、透けるような夏物を着ようという気にはなれない。

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もう一枚、候補に挙げた袷の訪問着は、薄いグリーンの地に茶の濃淡で森林や山の景色を
ロウケツで描いた、いかにもザルツブルクの風景にマッチしそうな柄行である。ここで
着なかったら、一体いつ着る機会があるだろうか、と思い、これに傾きかけた。

そこへ、イエスティン君からの鶴の一声。「一番上の着物が、舞台セットにぴったり合う
よ」とのこと。
(実はそれより以前に、ザルツブルクとバイロイトには、LCCの荷物重量制限もあること
だし、ロングドレスにしようと思って準備していたのだが、ツイッターで、ザルツブルク
には洋装と着物のどちらがいいかしら、とつぶやいたところ、彼から「着物!」とのリプ
をもらったため、急きょ、着物にすることになったといういわくつき。贔屓の言葉は何よ
り重い。)

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というわけで、決まったのは、桜花の織地紋の白地に銀灰色で撒糊を散らし、黒・金・銀
で木賊を絵羽模様に描いた、すっきりと洋風なデザインと色の着物。
これは、1年以上前、イエスティン君がザルツブルク音楽祭の『皆殺しの天使』に出演す
ると決まった時、この着物で行こう!と選んでおいたものだから、以心伝心というのか、
好みが合うというべきか。舞台セットと衣装はイエスティン君曰く、60年代のブルジョワ
の集いをイメージしたものだから、この着物のレトロな雰囲気がベスト・マッチとのこと。

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千秋楽が終わってほっと寛いだ表情のイエスティン君、グリーンの着物のロンドンの
椿姫さんと。
このあと、出演者と作曲家・指揮者も含む打ち上げ飲み会に参加。イエスティン君と
婚約者とその友達のテーブルで夜更けまでオーストリア・ワインを飲みながら、新作
オペラと遠征の大成功を祝ったのだった。
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# by didoregina | 2016-08-25 19:49 | 着物 | Trackback(1) | Comments(4)

グラインドボーンでの着物、キーワードは華やかさ

セイリング日記が続いたので、閑話休題。
昨年のグラインドボーンでの着物の写真をブログにアップしていなかった。
丁度約1年前だし、思い出に残すため、また、ヨーロッパの夏の音楽祭での着物推進派
としては、皆様のご参考になればと思い、今更ながらだがご覧いただきたい。

c0188818_1853257.jpg

グラインドボーンのご当主クリスティー家のサロン、オルガン・ルームにて。

遠征の着物選びにはいつも大騒ぎで、気温や降雨予想とにらめっこしつつ、夏物と袷の
何種類かを用意して、最終的には直前に決める。
イングランドの8月の夜ともなるとぐっと涼しくなり、グラインドボーンでは結局2年
連続、夏物ではなく袷の訪問着になった。

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淡い朱鷺色とクリーム色の中間の地色に、金で輪郭を描いたパステルカラーの遠山模様。
同行のロンドンの椿姫さんと、あれこれ事前打ち合わせするのも楽しい。
色柄とも二人で統一感があるコーデになったと思う。

夏の音楽祭、特にドレスコードがロングやタキシードの場合の着物選びのキーワードは、
華やかさ。
開演前や幕間には外の芝生の上をそぞろ歩くから、グリーンに映える色柄選びも重要。

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私のテーマは、山。だから、帯は綴れ織りで富士山を印象画風に織り出したもの。
帯は椿姫さんのもそうだが、金糸が入って暗い会場内で光彩を放つものがいい。

富士山の柄を選んだのは、『サウル』にダビデ役で出演の贔屓歌手イエスティン・
デイヴィスへのご祝儀のつもりである。
彼はその年の春、婚約を発表した。そのお祝いに、伏せると富士山の形になる
お猪口の夫婦セットをプレゼントした。そして、この帯にもお祝いの意味を込めた。
婚約者の方にもそれが分かってくれたようでうれしかった。

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イエスティン君と、帰りのシャトルバスの中で。
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# by didoregina | 2016-08-24 19:19 | 着物 | Trackback | Comments(2)

Sailing to Venice その3 アドリア海からヴェネツィアに

クロアチアのウマグからヴェネツィアに渡ったのは、プーナットのマリーナ出発から
5日目の木曜日だった。予定通り、7時半に出航。
ウマグから西に向かってアドリア海を横断する航路で、広い海に出ると特に難所はない。
途中、トリエステに向かう商業船航路であるシッピングレインを直角に超えなくてはなら
ない程度。
この日もほとんど1日中凪いでいて、海には波もなく、表面はとろりとして油のような
滑らかさ。ヴェネツィアまでの約50海里のほぼ全航程を機走。距離を稼がないといけない
航程では、風力が少ないとエンジンを使って航行ざるをえないのが残念である。

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午後2時半頃、ヴェネツィアのラグーナに入る。浅瀬が多いため、点々と杭が立っていて
掘り下げた水路を案内してくれるわけだが、やはりナヴィの機械表示に頼る。
遠くからぼうっと霞むヴェネツィアの島々が近づいてくると、長年の憧れがついに実現
することの嬉しさと緊張が刻々と高まる。


予約したマリーナは、本島とリド島の中間に位置するチェルトーザ島にあるのだが、まず
ヨットでどこまで町の中心まで行けるのか試すため、サン・マルコに舳先を進めてみた。
するとなんと、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島を越えて、ジュデッカ島を左に見て、
ほとんどサン・マルコ広場正面までヨットで進入できた。

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観光船や水上バス、モーターボートが行きかうが、ここまで来るヨットは珍しいらしく、
私たちは他の舩に乗った観光客達の格好の被写体で、皆、手を振ってくれる。
我らも、ヨットの上からサン・マルコの写真を撮りまくる。

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サン・マルコのほぼ正面まで来た。その先の大運河は狭くて、水上バスやゴンドラ、モー
ターボートで身動きとるのも大変そう。ここで引き返す。

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チェルトーザ島まで戻り、予約していたマリーナに無線で知らせると、北からそれとも
南からのアプローチですか?と訊かれる。南からと答えると、マリーナ入口までクルーが
ゴムボートで迎えに来てくれた。そこから細長い川のような浅瀬を奥深く進み、ほとんど
最奥の浮橋に案内してくれた。水上バスが発着する島の入り口から歩いて10分近くかかり
そうだ。

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ヨットの近くにはいつもヤギが4匹。ヤギのいるマリーナというのも珍しい。

このチェルトーザ島にはマリーナの他、小さな造船所とレストラン付きホテル一軒以外は
なさそうで、島の大半は公園になっている。
とても静かで、まるでどこか孤島のキャンプ場といった趣。
マリーナに舫っている舩も大半は地元民のレジャー用と思しく、外国からわざわざ来て
係留したりする人は極く少なく、まず、観光客がほとんどいない。人の溢れる喧騒のヴェ
ネツィアからこの島のマリーナに戻ると家に帰ったようにほっとする。しかし、すぐ向か
いはヴェネツィア本島というこの立地。都会からすぐの田舎。すっかり気に行ってしまった。

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マリーナから眺めたヴェネツィアの夕景。
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# by didoregina | 2016-08-23 17:11 | セイリング | Trackback | Comments(2)

Sailing to Venice その2 ロヴィニ、ウマグを経て海路国境超え

チャーターしたヨットの持ち主登録および航行範囲ライセンス問題に関しては、プーナット
で「イタリアへ行っても大丈夫なように書類は揃ってますよね」と再確認し、「ヴェネツィ
アでもどこでも大丈夫」と太鼓判を押されたので、大船に乗った気分でいた。

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火曜日朝にプーラを出発し、イストリア半島を北上。
アドリア海を横断してヴェネツイアへ渡るのに距離的に最短の港ウマグを目指す。ここの
マリーナも水曜日の停泊を予約確保した。木曜日にはヴェネツィアに着かないといけない
からだ。(なぜかというと、同乗の甥と姪は金曜日のフライトでヴェネツィアからオラン
ダに戻る必要があった。土曜日からシドニーに飛ぶ予定なので.。)

そこまでのイストリア半島では、ロヴィニ、ボレチ、フンタナ、ブルサルなど、ヴェネ
ツィアの影響の濃いイタリア風の綺麗な町がいくつかある。その区間は特に予定を立てず、
泊まる港はその日の風次第という気軽さがあった。
プーラを出て、チトー元大統領の島々を横目に見ながら進む。ロヴィニ手前の小さな島に
錨を下してランチと海水浴を楽しんだ。さて、午後はどこまで行こうか、と思いつつ、
この海域は初めてのゲストに、美しいロヴィニの姿を海上からでも見てもらおうとアプ
ローチ。

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ロヴィニの美しさに思わずウワオと歓声が漏れ、通り過ぎるのがもったいなくなった。
手前のマリーナに急遽無線で「今晩1晩停泊したいのですが、スペースはありますか」
と尋ねると、「有り余るほどですよ」との返事。さぞや混んでるだろうから、きっとここ
には泊まれないだろうと思っていたので、肩透かしというか嬉しさに、即ここに決定。
プーラからはたったの20海里である。

クロアチアが国を挙げてヨット・マリーナ開発に力を入れているのは、地中海沿岸の他
の国と比べて顕著である。立派な設備の整ったマリーナがそこかしこにあり、サーヴィ
スも至れり尽くせり。しかも、大概、美しい港町を眺めるのに最適の立地である。
4年ぶりにクロアチアでセイリングして日々感じたのは、EU加盟後の驚くべき物価上昇で、
外食もお安くないし、マリーナの停泊料金も1泊65~75ユーロになっていて、EU以前を
知る私たちは驚いた。(ヴェネツィアが安く感じられたほど。)

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マリーナからのロヴィニ、夕景

上陸してロヴィニ観光と、お洒落なレストランでの夕食で観光客気分を味わった。

クロアチアのマリーナには係留サポートをしてくれるクルーが常勤していて、ゴムボート
や自転車で桟橋まで誘導して、ムーリング・ラインを引き上げてくれたり、大変結構な
サーヴィスぶりである。
しかるに、ここのマリーナ・クルーにヨットの書類一式の入ったファイルを渡すと、中を
見ながら、「ライセンスは?」と訊く。「ライセンスは全部その中に入ってます」と言う
と、「このヨットはクロアチア籍なのか、ドイツ籍なのか?このライセンスではクロア
チア航行はできない。」と言い出すではないか。
「出発港でも確認したし、昨日プーラに泊まった時にもそんなこと言われなかったし、
書類には不備はないはず。」と反論しても、なぜか頑なな彼である。
ヨットを舫い終えると、彼が書類を持って行ったマリーナ事務所まで自分で赴き、ライセ
ンス等について確認すると「はあ?全く問題ありませんけど。」とのこと。
何ゆえに、サーヴィス・クルーは変な言いがかりをつけたのだろうか?

この疑問は、翌日解けた。
スロヴェニアとの国境に近く、出入国管理事務所のあるウマグ港に舫った際、桟橋の隣の
バースにドイツ人グループのセイリング訓練らしきヨットが入港。教官スキッパーが手慣
れた様子で、係留を手伝ってくれたマリーナ・クルーに冷えた缶ビールを手渡したのだ。
ああ、チップの要らない国に住んでいると、こういうことに気が回らない。
次男曰く「世界中で多分サーヴィス業の人たちへチップを渡す習慣がないのは、日本と
オランダだけだよ」。
これを教訓として、ヴェネツィアではマリーナ・クルーに、さっと冷えたクロアチア
ビールを渡した。そして、それは後で大層な効果をもたらすのであった。

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早朝のロヴィニ。昨日とは反対側だが、どこから見ても美しい。

ロヴィニからウマグまでも25海里ほどである。
ここのマリーナも、心配だったので事前に予約を入れておいた。しかし、それは全く必要
なかったと後で知るのだが、そのくらいこの時期のイストリア半島の港は空いていた。
マリーナに入る直前に無線で入港許可を取る。するとクルーが埠頭に来てくれるのだが、
まず「イタリアから来たのか」と訊かれた。「クロアチアからです」と答えると、「じゃ
あ、入管は必要ない」と言われて、それだけである。
もしも、スロヴェニアもしくはイタリアからこの港に入ったとして、「クロアチアから
来ました」と嘘をついてもわからないのではないか。この辺りから、国境での出入国管理
のルーズさ加減がなんとなくちらつき始めた。
しかし、私たちは正式に国境超えをしたい。だから、マリーナ事務所とは別の出入国管理
事務所および国境警察(港の埠頭にある)までパスポートを持って行って、翌日ヴェネ
ツィアに渡航する旨を伝え、書類に記入、スタンプなど押してもらった。
国境警察は朝5時から開いているとのマリーナ・クルーの話だが、実際事務所に行ってみる
と8時頃から開くとのこと。早く出発するから今日中に書類を提出したいと言うと、それは
OK。だから、出国スタンプの日付は実際とは異なるわけだが、それもOKらしい。
提出したクルーリストは戻ってこなかった。(その時のクルーは、ヴェネツィアで下船
する甥と姪も含む6名である。)

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さよなら、ロヴィニ。名残惜しそうなドリ号クルーたち。

さて、海上での国境越えの話をまとめてしまおう。
着いたヴェネツィアで、入国管理局(もしくは国境警察)に届け出ようと、マリーナ事務
所で所在地を尋ねると、警察は駅の裏辺りにありマリーナとは正反対側。水上バスで45分
かかるという。
マリーナに入管を委託する場合は約100ユーロの手数料をいただきます、とのことなので
自分たちで観光ついでに行ってみた。ちなみに、ヴェネツィアに着いたのは夕刻で、
警察はもう閉まっているから、行ったのは翌日。しかも翌日には甥と姪はオランダに発つ。
空港と方向が同じなので彼らと途中まで一緒に水上バスで警察に向かった。しかし、
今からイタリアを出る彼らの名前もクルーリストに載せて
提出するのはどうだろうか、と思い、かえってややこしくなりそうなので、4人にしてお
いた。イタリアはシェンゲン圏内なので、そこからオランダに行く飛行機に乗る彼らの
パスポート検査はないはずである。
警察に行って、クルーリストとパスポートを提出すると、商業船でないからクルーリスト
は必要ないという。
私のパスポートには、ヴェネツィアへの船による入国スタンプを押してくれた。翌々日
出国予定であるが、やはり早朝出発だし日曜日だから警察は開いていないから、翌日来て
もいい、とのことで、やっぱり日付が実際とは合っていない出国スタンプを翌日押して
もらいに再度でかけた。

片道45分もかけて行ったのだが、どうも誰も全く重要視していないというか、他に申請に
来る人も見かけなかった。
実際には6人でクロアチアから入国したわけだが、自己申告だから、実際のところは誰に
も判定しようがない。警察の開いている時間にしか申請できないので、入国・出国日時も
実際とはそれぞれ1日ずれている。
なんとも、ざるのような状況で水漏れ著しく、海上での国境管理とは難しいものだなあ、
と思ったことである。
それもこれもクロアチアがまだシェンゲンに入れてもらえないからで、それが通った暁に
はこういうばかばかしいビューロクラティックな書類業務もなくなる。
(その後、クロアチアへはノビグラド港から再入国したのだが、そこでも仰々しく書類だ
けは記入させられたが、実際にどうやって管理してるのかは全くなぞである。自己申告制
だからチェックのしようがないと思う。リエカ空港でパスポートチェックされているので、
別のところで再入国申請しなくても全く問題なくクロアチアにいられたはず。)

まあ、これもすべて経験のため、と思って、楽しんでやってみた。(そうでもなければ、
バカバカしい。)シェンゲン圏の早急な拡大を望むものである。
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# by didoregina | 2016-08-21 20:01 | セイリング | Trackback | Comments(0)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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